第42話

楓が仕事に向かってから、私も自分の仕事に向かう。





──…美容室…の中にあるマツエクのサロン。





アイリストは美容師免許を持っていないとなれないので。持ってるんです、美容師免許。





だから手の空いたときに、たまに美容室の方のお手伝いをすることがある。髪の毛を掃除したり、シャンプーを補充したり。








──…でも、私は楓にそのことを黙っている。








楓はまつ毛エクステの専門店みたいなところで私が働いていると思っている。まだ楓と付き合う前に、"再就職出来た!"っと報告した際、咄嗟に嘘をついてしまったからだ。だから楓はまさか私の職場に男性が居るなんて、夢にも思っていないだろう。





前の職場をクビになってから苦労して就職出来た今の勤め先。楓が常にクソ副社長と二人きりで仕事をしていることは、付き合う前から知っていたので─…そんな楓に対して、まだ彼女でもない段階から謎の罪悪感を抱き…嘘をついてしまったのだ。






だからと言って今の仕事を簡単に手放すことも出来なくて。それでも楓には知られたくなくて…もうずっと、黙っている。






本当のことを知ったら、楓に嫌われそうで。楓の大好きな副社長のことを常に悪く言っているクセに、自分は男性スタッフと共に日中を過ごし、なんなら美容室にくる男性のお客さんと絡むこともある…なんてことを。






楓に知られたら─…終わるような、気がして…今更本当のことを言えなくなってしまったんだ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る