第33話

「な、なにしてる?そこまでして辞めてぇのっ?!なに…俺なんかしたっ?!お前以外の人間を今更秘書になんてデキねぇよ、考え直せよ小山内っ!」




『──…申し訳、ありませんっ…』




「いや、だからっ…なんで、」




『"芹菜さん"─…っとお呼びすることは、どうも私には出来ないみたいでっ…幾度と練習や特訓を重ねてみましたがっ、どうしても…』





言われたことを守れない愚かな秘書、有能なんかじゃない、きっと見損なわれた。終わった。






「────…は?え、なに…そんなこと?それでここ最近のお前…変だったの?何だよ、言えよ。いやブレねぇな、お前。まぁそこがいい所でもあるけど。あー…まじで時間の無駄。今のこの時間…すっげぇ無駄。何だよ、この無駄なやり取り。おら、さっさと頭上げろよ小山内」





そっと頭を上げた俺に、専務は仏のようなお優しい言葉を述べられる






「俺の秘書はお前だけ。辞めるなんて許さねぇ…名前呼びがデキないくらいで辞めるなんて言うな。俺がパワハラしてるみたいじゃねぇか。芹菜のことは好きに呼べばいい、押し付けるようなことして悪かったな?お前の性格、分かってやってたハズなのに。俺が間違ってた、悪かったよ小山内。だから辞めないで。」






そのあまりに優しい言葉に、涙が出そうになった





「ってことでお前、今日は帰って?一日休んで明日からまた俺のために尽くせ。他に気がかりなことがあるんだろ?顔を見れば分かる。良い機会だから、芹菜に一日秘書をさせて社会勉強させるから…仕事のことは忘れて問題を解決してから出社して。お前が使えないと俺が困る」






俺のことを何でもお見通しの専務に、今度は感謝の意を込めて頭を下げる





『ありがとう、ございますっ…専務、』




「まぁ…二度はないから、気をつけて」





二度なんて、決して起こらない。起こさせないためにも、美羽とちゃんと仲直りをしよう





全部包み隠さずに話して、戻ってきて欲しいと…今度は美羽に、頭を下げよう

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る