第31話

カチャンッて、食器がぶつかる音がして目が覚める。クリアになっていく視界の中で…リビングの照明が見えて─…





あぁ、昨日ソファーで寝たんだっけ…っと、昨夜の記憶を思い出して慌てて身体を起こす






『──美羽、おはよう』





キッチンで料理をしている美羽に声を掛ける





しかし、彼女は相変わらず俺のことを居ないものとして扱う。






『美羽、ちゃんと話そう。このままだと仕事に支障が出て専務に迷惑がかかる。まだ…怒ってるなら、謝る。だから、いつまでも意地を張らないで、大人なんだからちゃんと話し合いを』





「──…知らないよっ!だって、私には関係ないんでしょ?仕事に支障が出るってなに?私は、そんなに邪魔な存在っ?!ご飯だってちゃんと作ったし、お風呂だって沸かした。何が不満なの?!楓がうるさいって言うから黙ったんだよ!先に寝てって言うから寝たんだよ!?」






そんな、つもりで言った訳じゃっ、






「勝手すぎるでしょっ…?別にクズ副社長との間の話なんてモノに興味はないし、仕事の話をされても分からないから聞くつもりだってなかった!だけどっ…まさかっ、楓の口から、女性の名前が出てくるなんてっ…」






ひどく、震え始めた彼女を見て、ヤバいと感じた俺は美羽に駆け寄り抱き締めようと近づく






「─…ヤメてっ、もう私に近付かないでっ!」




『美羽…ちゃんと話したいっ、俺は、』




「いーよ、別れてあげる。芹菜さん…って人のところ行けば?私より稼いでるんだから、楓がこの家を出てってよっ、思い出も全部何もかも置いてって…もう帰ってこないで!!!」





美羽は俺の横をすり抜けて、リビングを出ていってしまった。その後すぐに玄関のドアが閉まる音が家中に響く。





あぁ…どうしてこうなってしまったのだろう






また、ハジメテの感情を抱く。─…哀しい、凄く…胸が締め付けられて、苦しいっ。





美羽に出会うまで知らなかった。愛情なんて無くても生きられる、そう思っていたのに。彼女からの愛を無償で受け続けてきた俺は、もはや美羽の愛情ナシでは生きられなくなりつつある





こんなことになるならずっと一人で居たかった、孤独のままで良かった。






『───…美羽、』






彼女が作りかけていた朝食が、二人分用意されているのをみて…もしかしたら、今日は一緒に食べようと思っていてくれたのではないか、っと思うと…自分の発言を思い出して激しく後悔する。







どうして、すぐに謝ることが出来なかった?






なぜ専務の名前を出して仕事の話なんてした?






彼女から別れを告げられた俺は、食事を摂ることも出来ず、ただボーっと放心してから…専務からの着信を受けて現実に引き戻される

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