第25話

美羽が一人思い出を振り返りながら

夢の中に堕ちてしまった頃─…






リビングでひたすらパソコンと向き合っていた楓は、独り言を呟く





『─…芹菜さん、芹菜さん芹菜さんっ、』






専務の奥さまの名前、"芹菜さん"という言葉を…サラっと言えるようになるまで…練習をしている。その理由は─…





専務自らが「"奥様"とか呼ぶの、堅苦しいから辞めて?普通に芹菜って呼べよ。小山内は有能な俺の秘書だから、特別に許可してやる。」






っと、仰っていたので。奥様の名前を呼べるようになるまで仕事が終わってから一人、外で"芹菜さん"って単語を呟き続けたり、パソコンで"芹菜さん"という4文字を何度も何度も入力していた。






なのに、いざ専務と奥様の会話になったとき─…いつまで経っても出てこない"芹菜さん"という単語。たった5文字の単語をスラッと口に出来ないことにイライラして─…






美羽に対していつも以上に冷たく接してしまった。っという自覚はある。






それに、"芹菜さん"という言葉を永遠にパソコンに入力していたせいで、うっかり美羽の前で零してしまった、いつまで経っても言えなかったハズの5文字の単語。





ソレを、寄りによって美羽の前で発してしまった俺。美羽の名前はすぐに口から出てくるのに、美羽以外の女性の名前を口にすることがこんなにも難しいことなんて─…





やはり俺の中で美羽という人間が少なからず特別な物なのだと再確認できたところで…拗ねて眠ってしまった彼女の元へ向かう






寝室のドアを開いて少し、驚いた。





──…ベット、一人で動かしたの?





かなり重かっただろうな…っと思いながら、精一杯の強がりを示している美羽が奥ゆかしくて。隣で眠れないことを残念に思った。






──明日、起きたら直ぐに謝ろう。





っと、背を向けて眠る美羽の方に身体を向けて目を閉じた俺は…翌朝起きて、自分が犯した罪がどれほどのものだったのか思い知らされる

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