第2話 イレブン・バン・バレット ― 彼こそが鈴木さん
手順①:お互いに1~5の数字が書かれたカードを好きな枚数、場に裏向きで出す
手順②:お互いに六面サイコロを1つ振る。
手順③:お互いのサイコロの出目と、それぞれが場に出した手札の数字を加えた合計値のどちらがより11に近いかで競い合う。
ただし、12の出目だけ特例として、『出目の数』-『カードの数字』として計算する。
手順④:出目とカードの合計値が11からより離れていた方を敗者とする。
敗者は勝者が出したカードの数字との差額分、ペナルティとして拳銃を頭部に突きつけ引き金を引かなくてはならない。
手順⑤:敗者が引き金を引き終えた後、親を変更し手順は①へと戻る。ただし、一度使用したカードは、すべてのカードが使用されるまで使うことはできない。
以上の行程を経て実弾が発砲された際に生きていた人間に、賞金として『200万円』が贈呈される。
◆
ゲームは始まった。
「やった!」
親を決めるサイコロで見事に6を出した私からのスタートだ。というか、先に振ったサイコロで6を出したからと言って、鈴木さんに譲られてしまった。まあ確かに、先に6を出されてしまっては、どんな結果でも勝つことができないから仕方ないか。
ともかく、ゲームというものは何事も先手必勝。幸先のいいスタート!
さて、せっかくの先行。何のカードを出すべきか――
「ああ、子川様」
と、私の思考に割り込むように、骨山さんが話しかけてくる。
「ゲームの円滑な進行のために、あらゆる選択は五分以内に行ってください。五分を超過した場合、強制的に敗北とさせていただきます」
「あ、わかりました。気を付けます」
どうやら五分以内にカードを選ばないといけないらしい。時間制限を付けられるとちょっと窮屈……と思わなくもないけど、仕方がないかと諦める。
ともかく、今はゲームに集中集中!
「……」
このゲームは変則的なブラックジャックだ。
――
ブラックジャックを知らないとは言わせない!
トランプを使用するこのゲームは、賭博における定番である!
そのルールは至極簡単。ディーラーが山札を持ち、開始に配られた二枚のカードを手札として、カードの合計値が21になるように山札からカードを引いていくゲームだ!
ただし、21を超えた瞬間に敗北となり、また対戦相手となるディーラーや他プレイヤーとどちらがより21に近いかを競うこととなる!
閑話休題
――
イレブン・バン・バレットがブラックジャックと大きく違うのは二つ。
数字をある程度、任意で決定できる点と、基準の11を超えても問題にならない点の二つ。
だから意識すべきは――
「サイコロの確率……」
六面サイコロ2個。最低値は2。最大値は12。ただ、両方ともゾロ目でなければいけない出目。確立に起こせば36分の一。およそ3%にも満たない数字。
うーん、ここでソシャゲのガチャを思い浮かべてしまうけれど、試行できる回数が違う。
もしも引き金を引く数を最低値に抑えれたとしても、十回も手番が回れば実弾に届いてしまうはず。……まあ、そうとも言い切れないのがこのゲームのあくどいところ。
私はちらりと、卓上に置かれた拳銃を見た。用意されたのは自動式拳銃。回転式拳銃と違って、中に何発の弾が込められているかすら私にはわからない。そのうえ、どこに実弾が入っているのかもわからない。
一番下か、真ん中か、一番上か。
引き金を引く回数は、できる限り抑えた方がいいだろう。
負けた時のことも考えて、差は1~2で抑えておきたい。ただ、一度使ったカードは使えないルールだ。最も手札があるこのターンで、いきなり11を狙いに行ったとして、次の手番で碌な数字が出せなくなっては意味がない。
だから、一番勝率が高いのは――
「これ!」
私が裏向きにして出したカードは2と3の二枚。合計値5。これが私の判断だ。
「大きく出たな」
いきなり私が二枚も使ったことに驚いたのか、鈴木さんはそう呟いた。その反応に、得意げになって私は喋る。
「そりゃそうですよ。戦えるところで戦わないと!」
「勝負の鉄則だな」
ただ、これはブラフ。強気な姿勢と見せかけた、究極の安全策。
通常、六面ダイス二つの合計値で最も確率が高いのは7だ。そして二番目が6と8。この三つの数字が出る確率は、合計して約45%。さらに上下に広がる5と9を含めれば、67%にも及ぶ。
そして5という数字は、今後のための数字だ。
一ターン目に2+3で5のカードを消費する。
残る手札は1、4、5。
これを順番に1+4で5。そして最後に5のカードを一枚出せば、すべての手番で同じ数字を出すことが可能!
本当であれば7の数字と最も嚙み合いがいい4を出したいところだけど、1+3と4のカードを順番で消費したとき、残るカードは2と4と5。2と5を足して7としても、足さずに2と5で出したとしても、どちらにしても外した時のダメージが大きい。
なによりも、提出したときのカードの差分の引き金を引かないといけない都合上、出すべき数字は大きすぎても小さすぎてもダメ。
特に小さい数字はかなり危険だ。なにしろ、出目の確率からして相手が出してくる札は4に近い何れか。
だが、3を出すのもまたリスクが高い。
一見すれば5と3に確率的な大きな違いがあるようには見えない。ただ、そこが罠だ。
5の数値を目安にカードを切れば三ターンで手札が切れて、再び5枚の手札が使えるようになる。しかし、3を選択した場合、1+2と3を提出した後は4と5をそれぞれ素出ししなければならない。なぜならば4と5を9にして出すなんてリスキーなことができないから。
そうなると、3を目安にカードを切ると手札が切れるのに四ターン。即ち、4ターン目には相手にこちらの手がほとんど透けた状態になるということだ。
また、3を一枚出したとしても同じ。一枚目に3を出したとなれば、残るカードは1、2、4、5。最も効率がいい4は一度しか出せず、三ターンでカードを消耗しきるには期待値の低い6を連続で出さないといけない。
危惧するべきは4を二回連続で出してくるルート。だけどもし4か1+3を連続で出して見事11を連続で当てたとしても、私が出すカードの合計値は5。即ち、たった一回引き金を引くだけで、敗北のペナルティをスルーすることができる。
だから、出すべきは5。これを繰り返して、じわじわと相手にも引き金を引かせる。
そう。これはチキンレース。
お互いに一回ずつ引き金を引いて、度胸を試すロシアンルーレット――
「ビギナーに一個、いいことを教えてやる」
にやりと私の顔に笑みが浮かび上がりかけたその時、無表情で自分の手札を眺める鈴木さんは言った。
「種はあるのに種がないように見せるのがマジシャンだ」
「……え、えと……どういう意味ですか?」
「さぁな。ま、気を付けろってことだ」
まったくもって意味の分からないことを言う彼は、そのままカードを一枚伏せた。3か、4か、はたまた5か。
どちらにせよ、5以外の数字であれば差ができる。差の分だけ、引き金を引く回数が増える。それだけ、どちらかが勝利する確率は高まる。
死ぬ確率が高くなる。
ごくりと、私はつばを飲み込んだ。
「お互いにカードが出そろいました。それでは次に、親からダイスを振ってください」
カードが出そろい、ダイスが振られる。
私が出した出目は6。先行を取れた時とは逆に、運が悪いと思ってしまった。なにしろこれで、私の合計値が12以上であることが確定してしまった。3や4が有利な展開だ。
いや、この際、1回や2回程度のリスクは甘んじて受け入れるべきか。次の展開。そのさらに次の展開で、こちらに有利に働けばいい。
それに、これはいつ実弾が飛び出てくるかわからないロシアンルーレット。私が何回引き金を引くことになろうと、相手が引く一回に実弾が入ってれば、私の勝ち――
「6だ」
「うっそ……」
鈴木さんの出目は6。即ち、出目の合計値が12になってしまった。まさかのまさかな展開である。3%未満の珍事態。これは、想定するだけ無駄と捨てた可能性だ。
私が出したカードは5。12だけ特例で引き算だから、合計値は7か。セオリー通りなら、3、4、5のどれかが出されているわけで、三分の二で私の負け。勝っていたとしても、数字に差がなくて無効試合になってしまう。
「それでは、場に出たカードを開示させていただきます」
イカサマができないようにと公平を期して、骨山さんが私たちが出したカードを裏返す。表になった自分の2と3のカードを見て、私は思わずため息を付いた。
転じて幸先の悪いスタートだと思った。
ただ。
「まあ、こんなもんだな」
めくられた鈴木さんのカードを見て、私は目を疑った。
『1』
そこには、そう書かれていたのだ。
「……え?」
鈴木さんが出したカードは1だった。
それはつまり。
「見事! 鈴木様はぴたりと11を当てられました! まあ、当てたからと言って何かあるわけではありませんが……ともあれ、今回のゲームの勝者は鈴木様となります」
いや、そうじゃなくて。
鈴木さんが1で勝ったってことは。
私が5で負けたってことは。
「それでは子川様。ルールに則り、ペナルティとしてこちらの拳銃の銃口を頭に突きつけた状態で4回、その引き金をお引きください」
私は、4回も引き金を引かなきゃならないってことだ。
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