第10話

『あー…来週の水曜日は俺が先に図書室へ行くから、今日はお願いしてもいい?』




本音を言えば…嫌だ。俺は吏菜との昼休みの時間を何よりも楽しみに生きている。それを奪われるなんて有り得ない…図書室なんて爆発してしまえばいいとさえ思っている。





とはいえそんなことは目の前の彼女には関係の無い話だ。彼女もまた理不尽に図書委員会に巻き込まれた被害者かもしれない。




だとしたら…別に彼女に対して恨みつらみなんて感情は湧かない。むしろ毎度声を掛けて教えてくれてありがとうございます、と言うべきだろうか?





「……それは大丈夫。でも今日は突然だったし私が一人で行くから…小山内くんは一ノ瀬さんとのお昼、楽しんでっ…!」




……え、いいんですか?ありがとうございます




一ノ瀬さん、というのは吏菜のことだ。…まぁ吏菜は俺の婚約者な訳だから俺と同じ小山内という苗字になることは確定している訳だが。




『ありがとう…凄く助かるっ、来週からは俺も真面目に行くね。本当にありがとう』




マリア様のような優しい図書委員の女子に笑顔で感謝を述べれば、彼女はまた顔を赤くして教室を飛び出して行った。……図書室より保健室へ行くべきでは?




っと思いつつ、俺が心配する女子はこの世界でたった一人吏菜だけ。あとの人間が目の前で野垂れ死のうが手を貸してやるつもりはない。いやだって面倒だし、俺じゃなくても他の人が助けてあげるでしょ?

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