第36話
─…ピンポーン、とインターホンが鳴り夕飯を作っていた手を止めてモニターを表示する
「おーい、ミナちゃーん!来たよー、いっちゃんが来たよー!」
──…”いっちゃん”
っと名乗ったスーツが良く似合う男性。彼のことは私も知っている。何度か顔を合わせたことがある律希さんの実の弟の
逸希さんの声がリビング中に響いた瞬間、子ども部屋のドアが開いた気配がしてリビングから顔を出して廊下を覗くと…玄関に向かって走るミナちゃんの姿を捉えた
今日は律希さんが遅くなるから…私と二人きりなのが嫌でミナちゃんが逸希さんに連絡を入れたようだ。
「いっちゃーんっ!!!」
玄関を開けて逸希さんの姿を捉えた瞬間に彼の胸に飛び込むミナちゃん。余程私と二人きりが嫌だったのかと少し心が傷んだ。
「ミナちゃーん、元気してた?っあ、これお土産ね!プリンっ!好きだろ?んでこっちがお小遣い〜!兄貴に見つかる前にちゃんと隠しておくんだよ?ほら、先に隠しておいで!!!」
子どもの扱いが上手い逸希さん。お小遣いをもらったミナちゃんはそれを隠すために再び子ども部屋へと全力で走って消えていった。
「──…絢音さん、お久しぶりです」
私は…この逸希さんのことがとても苦手だった。多分彼は私たち夫婦が恋愛結婚ではないことを薄々気付いているのだろう。
彼の私を見る目はいつも─…冷たい。
『お久しぶりです、逸希さん。っあ…夕飯まだなら良かったら一緒に、』
「いや、結構です。ミナちゃんと外で食べてきます。その方が気が楽でしょ?お互いに」
ほらね、彼に嘘は通用しない。だから苦手なんだ…私はこの逸希さんのことが…とても苦手。
ガチャ…っと子ども部屋から出てきたミナちゃんが、何故か逸希さんのところではなく私の元へと歩いてきて、、
「………行ってきます。帰りはパパに連絡するから心配しないで」
律儀にも私に挨拶をしてから…逸希さんの元へと走って行ってしまったミナちゃん。彼女を腕に抱きかかえた逸希さんがそのまま玄関の扉を閉めて出ていってしまえばもう…私はただの部外者だ。
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