第34話

『………えっ、律希さんっ…?』




ついにイカれたのか、ポンコツ律希は何を思ったのか突然私のことを力強く…抱き締めた。




帰ってくる道中、走ったりしたのか…着ているスーツから香水に混じって少し汗っぽい匂いがする。





「──…ごめん、怖かったよな」




ほらね、やっぱり…いい人なんだよ律希さんは。抱きしめる腕に少し力を込める彼のこの行為にきっと…意味なんて、ない。




ただ、優しいってだけ。





「絢音一人に任せて、ごめん。でも絢音が居てくれて良かった…実夏の世話をしてくれて、ありがとう」




だから、言えなかった─…別れの言葉を。言えば終わるって分かってたのに言えなかったのはこの人のことをもう少し、信用したいと思ったから。





「もう絢音一人に、怖い思いはさせない─…今度こそ約束だ。」



『…勝手ですね、ほんと』



「あぁ、悪いとは思ってる」



『ほんとに?』



「俺が嘘ついたこと、あるか?」



『いや、今のところ偽りしかないです』





大変な一日だったけどほんの少し…律希さんと近づけたような気がしたし、ミナちゃんに対して歩み寄ろうという決心が着いた、今日この日のことを私は─…離れても忘れないと思う。

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