第29話

車の鍵を手に取り、ナビに小学校の住所を入れてミナちゃんの元へと車を走らせる。その道中で律希さんに連絡をとるが…彼がそれに応えることは無かった。





無事にミナちゃんの小学校について事の経緯を警備の人に伝えると…先生に手を引かれて門を出てきたミナちゃん。迎えに来たのが私だと分かっていたのか、ミナちゃんは泣きも笑いもせずにただ私の隣に立って先生に「さようなら」と告げている。




身分証やらなんやらを提示させられ、私が不審な人物ではないことをしっかり確認された上でミナちゃんと共に帰ることを許可された。





そのままミナちゃんを後部座席に乗せて、来た道をもどる。ミラーで彼女の様子をチラチラ伺うが…窓の外を見ているみたいで目が合うことは無い。





──…家に薬ってあるのかな?




市販薬でもいいのか、それとも病院に連れていった方がいいのか…どちらにしても一度律希さんに連絡をとらなければ、、




っと思った時だった…急に咳き込みだしたミナちゃんに焦った私は、車を路肩に停めて慌てて後部座席に座る彼女の隣に乗り込む






『み、ミナちゃんっ?!大丈夫…?!苦しい?どこが苦しいのか言ってみて…?!』





あまりに苦しそうに咳き込む彼女をみてパニックになりつつ、そっと手を握る。しかしミナちゃんは私の問いかけにこたえることなく…小刻みに身体を震わせ始めた





──…何これっ?!痙攣、麻痺っ?!!





子どもが熱を出した時の対処法なんてものを知るはずもない私は、もう何度掛けたか分からない律希さんにヘルプの電話を入れる。





『ポンコツ律希っ─…お願いだから出てっ…出なかったら一生恨むっ、呪う!!』




もはや冷静ではない私はミナちゃんの前だと言うことを忘れ彼をポンコツ呼ばわりしながら、無機質に流れ続ける呼出音に向かって文句を叫ぶ。






それでも繋がらない電話に…不安でいっぱいになった私の元に、たまたま通りがかったと思われる主婦の女性が車の窓を叩いて声を掛けてくれた





「─…どうしたのっ?!大丈夫?!!」




買い物帰りなのか、女性は自転車を降りて近くに停めると震えて咳き込んでいるミナちゃんを見て─…




「そんなに慌てなくても大丈夫!寒気がして震えてるだけだよ。何か…掛けるものはある?あー…熱が結構高いね。早めに病院連れてった方がいいよ!!ここからなら信号曲がって突き当たりの医院が一番近い!すぐに診てもらえるだろうから、そこにしな!!」






言われた医院に急ごうと、運転席に戻った時…歩道側で自転車に跨った女性が先導して私の前を走ってくれる。





彼女のおかげで迷うことなく医院にたどり着くことができ、すぐにミナちゃんを診てもらえることになった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る