第31話

「尾藤さん、おめでとうございますっ!今で妊娠9週目ですね。もう赤ちゃんの心拍も確認出来ますよ!母子手帳ももらえると思うので、指定された場所で〜・・・」





これまでの人生で、他人に【⠀おめでとう 】と言われて、素直に手放しで喜べないのは、あの誕生日の日にケーキを運んできた男のスタッフを入れて、今この瞬間で二回目だ。







とりあえず妊娠していると分かって、真っ先に思ったのは、、"店長、辞めよう"だった。







それは私の中では"産まない"なんて選択肢は存在すらしていないということで、思っていたよりも自然に受け止めることが出来た。








ーーー・・・凪砂との子どもを授かった







正直、こんなにも幸せなことはないとさえ思える。ずっとずっと大好きだった凪砂。







あの夜のことを他人が聞けば、凪砂のことを非難する人もいると思う。でも私には凪砂が、とても弱々しくて、突き放すと消えてしまいそうな、、そんな風に見えたんだ。






それに、【 責任 】なら私自身にもある。あの日の凪砂は冷静ではないと分かっていたのに、いつも避妊していた凪砂に安心しきって、受け入れたのだから、誰が悪いとか、誰の責任とか・・・そういう事は一切思わない。







ただ、シンプルに、、






『……嬉しいっ』







そっと自分自身のお腹に手を乗せて呟く。







『ありがとう、、』







私のところに来てくれて、ありがとう、、







っと、今はそんな気持ちでいっぱいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る