第2話「絶対絶命!?セラムーの秘密!」

 世に魔法少女あり。


 フィッシュタウンを襲った謎の怪人アユ・マーメイド、そして撃退したセラムーは一躍大人気となっていた。


 町を歩けば小耳に挟む。


 人はセラムーを『魔法少女』と呼んだ。


「愛園さん、おはようござ──」


「──ひゃー!!!!????」


「どうした愛美ー!! て、おっちゃんじゃんか。ムカデでも出たのか、愛美」


「な、な、なんでもないよ、お兄ちゃん」


 愛園兄妹が微妙に擦れ違っている。


 たぶん愛園さんは、セラムーのことでフィッシュタウンの大ニュースになっているのを新聞を読んでいた愛園パパから聞いたとか、テレビに流れているのを見たのかな。


 うん、正体を隠しているとびっくりだ。


 俺も覆面して深夜の高校に妹が忘れた体操服を持って帰らなければならなくなったミッションでは大騒動になって緊張した。


 今の愛園さんと同じだな?


「愛美、今日はおかしいぞお前」


「そんなことないよ!?」


「おっちゃん、愛美、おかしいだろ絶対。昨日のカツオ食い過ぎて腹の調子が悪いんだぜ絶対。うんこに二回も言ってまだ出しきれてないんだ」


「わぁー!? お兄ちゃんのバカ!」


「いてッ! なにしやがんだ!?」


「バカバカ! 知らないからね!」


「あッ、こら、愛美! これだからガキは……待てって、愛美、愛美ー!」


 俺は愛園兄妹を見送った。


 言葉を挟む隙が無かった。


 ちょっと危なくないかな?


 でも、謎の美少女ヒーローの正体を知りたがるのが普通だし……愛園さん、ボロがでなきゃいいんだけど……難しいかな。


「あッ」


 愛園家の窓──。


 愛園パパこと、元龍くんがエプロンをした姿で手招きしていた。通称はマッスルゴリラだ。


 俺はお呼ばれして庭に入る。


 愛園家の窓が、開けられる。


「宗馬さん、愛美がおかしくなかったですか? どうも昨夜からおかしくて。今までこんなのなかったですよ。もう心配で心配で」


「う〜ん……」


 愛園さんの悩みはセラムーと仮定する。


 話せることが何も無くなっちゃうんだ。


「愛園さんて今年、中学3年でしたっけ」


「2年生ですよ、2年生」


「あー、思春期じゃないですか? 俺らの中学時代どうでしたよ。愛園さんがツンツンしていたとしても可愛いじゃないですか元龍くん」


「そう言われりゃ、まあ……」


「数年もすれば落ち着きますよ」


「そうかなぁ……」


 マッスルゴリラはしょうもないことを考える前に、できることをやれば良いのだ。それは俺も同じかな。できること、身近なこと、小さなことを取り組めない人間に大事は成せない。


「不安なら嫌われないよう頑張りましょ」


「嫌われるのか!?」


「反抗期は怖いですよー?」


「う、うおォー!?」


 元龍くんが倒れた。



「昼間からお酒飲んで大丈夫ですか?」


「かまいませんよ、ちょっとだけ。はぁ……愛美が大人になったてことですよねェ……男らしくないですけど、すげぇ寂しくて怖いです」


「男とパパは違いますしねぇ」


「そうなんですよ! 宗馬さん、私はアキラと愛園をずっと育ててきた。あいつらが物心付く前からずっと。あれ? アキラの奴、昔からあんなだぞ?」


「解決したなら良いじゃないですか元龍くん。アキラくんも愛園さんも変わらないてことですよ」


「それはそれで嫌だー! アキラはめっちゃ冷たいんです鼻で笑われるんですよ!」


「あー……」


「魔法少女のニュースは?」


 唐突に、元龍くんは話題を投げる。


「知ってますよ。怪人が現れた、と」


「……愛美にはあんなのになって欲しくないんです。魔法少女は愛美と歳が近いように感じました。子供が、命をかける義務と誓いもわからないような奴に負わせるもんじゃない」


「お姉様な魔法少女かもですよ。変身ですから。子供ではない、と考えるほうが気楽です」


「確かに、ですね」


 セラムーの正体は愛園さんの可能性がある。だがそれを元龍に話すつもりは無かった。


「愚痴を聞いてくれるのは宗馬だけですよ。本当に感謝しています」


 と、元龍くんは頭を下げた。


 元龍くんの額がテーブルに当たる。


 ハンマーを叩きつけたような音だ。


 元龍くんはかなり酔ってるな……。


「酒が飲めない俺を捕まえてな」


 と、俺は炭酸水を飲む。


 アルコールは、得意じゃない。


 おつまみの鮭の漬けを食べる。


 胡麻油も入って良い味がする。


 この一品を昼間からは贅沢だ。


 チラ見した壁には写真が並んでいた。


「元龍くんを見てると、俺も結婚して子供がいたらと考えますね。こんな未来もあったのか、と」


 ビールを飲んでいた元龍くんがギョッと驚いてむせていた。悪いことを言ったな。言うべきじゃなかった。


 鮭の漬けを食べる。


 ねっとりとした味は好みだ。


「ご馳走様でした。帰るよ、元龍くん。あぁ、それと今日は学校の最終日だからアキラくんはともかく、愛園さんは昼には帰ってくるかもですよ。アルコール」


「……早く言ってくださいよ……愛美は嫌うんです。アルコール抜きだなァ……」


 元龍くんはそう言うが、時計は昼を指していた。少し、長居をしすぎたらしい。


 その時、愛園家の電話が鳴る。


「失礼」


 と元龍くん電話に出た。


 手短なやりとりだった。


「愛美の自転車がパンクて話です。俺は酒飲んでますし……宗馬さん頼めませんか?」


「オートバイ貸してくれるなら」


「トライクがありますよ」


 ニヤリと元龍くんが笑う。


「最高ですよ、元龍くん」



 宇宙船みたいな銀色の流線。


 前に1、後ろにF1並みタイヤが2本。


 スーパーチャージャーの赤い三つ目。


 三輪車で星晶中学校校門前の駐車スペースにトライクくんを停めている。サングラス越しに見る夏休み前の学生諸君は浮かれていた。だが、ホットな話題は謎の魔法少女セラムーであるようだ。


「……誰の迎え、あのおじさん」


「えぐいバイク乗り付けてんだけど」


「目合わせちゃダメ、ヤバいて!!」


 桃園さんはまだ校内らしい。


 もう少し待とうか、と、エンジンを切る。少し早く到着したらしいな。……視線、気をつけないと星晶の美少女中学生に惚れられては大変だ。


 セラムーか……。


 魔法少女のような存在。


 突如現れたヒーローだ。


 敵はなんだろう?


 ビッグシャチという怪人は、オンネンパールでアユ・マーメイドが誕生したことを偶然と言った。フィッシュタウンの魚が目的で、怪人化は想定外だが対人類には都合が良いと言うことかな。


 オンネンパールか。


『魔装少女セラリッチ』の世界だな。


「あッ! 桃園さーん!!!!!!」


 桃園さんが出てきた。


 桃色ピンクの髪は見間違えない。


 桃園さんは鞄で顔を隠しながら早歩きであっという間に抜けていく。無視された。知り合いと思われたくないと、突き放されている。


 桃園さんの後ろには友人がいた。


「愛美ちゃんの知り合いじゃない?」


 桃園さんの足が止まる。


 心なしか喧騒が消える。


「……近所のおじさん」


 と、桃園さんはそそくさした。


 俺はバイクを見た。


 宇宙船みたいなシルバー。磨き抜かれたタンクの表面は滲むこともなく俺の顔を映す。


 ちょっとショックである。


「ちょっとそこのおじさん」


 と、肩を叩かれた。


 ポリスボックス送りであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る