そうです俺が無敵の人です〜普通の生活には魔法少女・忍者・巨大ロボが含まれます〜

RAMネコ

第1話「WAO!にゃんだふる!?」

「行ってきまーす!!」


 近所の中学生が元気な挨拶をしながら玄関ドアを蹴破った勢いのロケットスタートする。


 ふわふわな綿菓子みたいなピンク色の髪で満点な笑顔を包みながら、星晶中学校の制服のリボンとスカートを揺らしながら道路へ飛びだす。


「あッ!! おじさんおはよー!」


「愛園さん、おはようございます」


 おじさんに挨拶してくれる。


 良い子だなぁ、眩しすぎだ。


「それじゃ学校に行ってきまーす!」


「はい、行ってらっしゃいですよ」


 愛園さんは「わはー!」と、手を振りながらいつもと変わらない元気印100%て感じで走り、横断歩道の赤信号を待ちきれないて雰囲気で背中を見せていた。


 爽やかな朝というには初夏の蒸し暑さが増している七月も後半──中学生に限らず学生には夏休みが待ち遠しい時期だろう。


「うーん。眩しい」


 太陽が暑いぜ。


 太陽に手をかざして影を作る。


 おじさん汗かいてきちゃった。


「うげぇ、おっちゃんじゃんか」


 と、愛園さんが出てきたのと同じ玄関から高校生で学ラン姿であるアキラくんが鞄を片手で肩に掛けながらあらわれた。


 アキラくんは愛園さんの兄だ。


「おっちゃんですぞー。おはよう、アキラくん、愛園さんは信号まであっという間に行ってしまったよ。走れば間に合うよ」


「高校生が中学生のガキンチョと一緒に登校なんてするかよ。恥ずかしい。おっちゃん、行ってくるよ」


「シスコンのクセにー」


 と、俺は口元に手を当てながら腰を曲げて、アキラくんを指差す。


「あァん!? 誰がシスコンだ!!」


「そろそろ0900時か。学校て何時くらいに始まるのだろうね」と、俺が言ってる矢先に、微かに予鈴の鐘が聞こえてきた。


「やべぇ!!」


 アキラくん全力疾走だ。


 遅刻にならなきゃ良いけど。


「夏だぜ……」


 気の早い蝉が鳴いている気がした。



 夕飯の買い出しに町に出たときだ。


 のどかで平和なフィッシュタウンでは、犯罪とは無縁で、すっごく大ニュースと言えば、野良猫に誰がご飯をあげるかで話し合いがあったくらいだ。


 そんな町に突然、怪人があらわれた!


「ぎょーぎょっぎょっ! 俺様はビッグシャチ! 愚かな人類どもが盗んでいる食べ物を返してもらうぞ!」


 筋肉ムキムキ、シャチの尻尾を生やした霊長魚人型の怪物があらわれて鮮魚店の魚を奪っては網に入れていく。


 魚が欲しいようだ。


「わー」


 フィッシュタウンの人々はビッグシャチの登場にすっかりパニックになった。ビッグシャチから逃げるために走って、俺も逃げる。


 今日の夕飯の鮎が動いた。


 七月の若鮎の柔らかく香りが強いそれが、脱出する! 食べられるという怨みか、はたまた人間への執念が不思議な力を起こして、鮎の尻尾を生やしたアユ・マーメイドへと変身したのだ!


 俺の夕飯だよ。


「ほぉ、ラッキー男だな! これほどの純度のオンネンパールが見つかるとは!」


 ビッグシャチが腕を組んで笑う。


 なんということだ……。


 俺の夕飯の鮎は、オンネンパールのパワーによってアユ・マーメイドに変身したらしい!


 このままでは危ない!


 オンネンパールによって邪悪な心を宿したアユ・マーメイドは人間を傷つける衝動のままに暴れてしまう!


 だが普通の人間では止められない!


 アユ・マーメイドの若々しい鮎の尻尾のテールアタックが迫る! ただの人間に過ぎない俺には見ることさえできない超スピードの肉厚な尻尾が当たってしまえばバラバラになるだろう。


 俺は覚悟を決めた。


 今晩は鮎を食べない。


「……こ、これは?」


 俺は、背中を見た。


 桃色の髪、大きな背中、ふわりとしたスカートを揺らし、フリルのドレスであるが戦うための衣装であるものを着た──戦士を!


「大丈夫ですか!?」


「あ、あなたは……」


「えっと……」


「セラムーだぽぽ」


 セラムーではない声が聞こえた。


 だがその姿を見ることはできない。


 精霊とかマスコットというやつね!


「せ、セラムーです」


 セラムーは少し照れている。


 可愛い。安心感があるよ。


 セラムー、俺の恩人だな。


 しかし感謝をしている場所じゃないぞ!


「隙ありー! アユ・マーメイドよ、最初の敵にそこのセラムーとやらをやっつけてしまえー!」


 ビッグシャチが、アユ・マーメイドをけしかけた。魚人生命体に成長したアユ・マーメイドが消えた。


 アユ・マーメイドが見えたのは一瞬。


 それはワープしたようで、まばたきする時間さえもあまりにも長く感じる一瞬で、パンチがセラムーに近づいていた!


「セラムー! 危ない!」


 アユ・マーメイドのパンチがセラムーに当たってしまったのか!? 違う、セラムーはアユ・マーメイドのパンチを受け止めていた!


 アユ・マーメイドの拳が、セラムーの愛の手で包まれる。そしてアユ・マーメイドは膝から崩れた。まるで超大重量を突然、背負わされたかのようにだ。


「ば、バカな! こんな小娘に!?」


 ビッグシャチも腕を解いて驚く。


 アユ・マーメイドは、セラムーに圧倒されていたからだ。頑張れ、セラムー!


 セラムーが素早く腰を落とし、アユ・マーメイドの腰に手を回すと軽々と持ち上げ──高々とジャンプ、隕石のように落下してアユ・マーメイドをノックダウンした。


「愛の大陸に眠りなさい」


 セラムーのカッコイイ決め台詞。


 アユ・マーメイドは光り、爆発!


「くッ……セラムーか……その名前、覚えたぞ!」と、ビッグシャチは別次元へと消えて逃げた。


 ありがとう、セラムー。


 ありがとう、命の恩人。


 セラムーは仮面で目元を隠した笑顔で、感謝する普通の人々に事件は解決したことを広めると、美しい桃色の髪をなびかせながらどこかへと消えていった。


 凄いぞ、セラムー。……あれ?


 セラムーて愛園さんだったな。


 マスクしていたが間違いない。


 まあいいか、そういうことは。


 セラムー誕生に無粋な詮索というもの。

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