第2話「頼れないお姉さんと新規雇用クルー」(1)
自由傭兵の祝いなんだって。
宇宙船は自前で持っているなら、支度金は先輩を労うのに使うのが伝統なのだそうだ。と言うことで唯一知ってる店、スペースレディで『先輩』に奢っている。
「きゃー! 来てくれたのねドザちゃん!」と、ネアンデルタール人に襲われていたラフィちゃんに抱きしめられたりしていた。相変わらずのバニー姿は可愛かったが、それの話はは置いといて……。
ベニマルは『同僚』に対して色々話してくれた。それはどれも俺の知らない『太陽系にある別銀河』という信じられないような話だ。
ベニマルが傭兵の薀蓄を語る。
「自由傭兵てのは主に、交易船だとかベルトから資源を掘ってくる採掘船だとか、カタパルトから発射するコンテナ群を狙った宇宙海賊が主な商売相手。交渉じゃないわよ、戦って撃沈するて意味ね」
ベニマルが突然、俺を見る。
なんだろうか?
正面から見るとほんとぺったんこだ。
「痩せてる。ドジャー号の食糧はどの程度? 軍艦だし結構大きい筈だけど」
「……そういえば確認したことない。自動調理で出てくる物を食べるだけだ。上手い具合の循環システムで無限に食べ物があるんじゃないのか?」
「どんなSFよ!? ドザは良く今日まで生きてこられたものね関心するわよ。取り敢えず消耗品を蓄えておかないとね。最悪、物々交換もできるし。あッ、世の中には重量ケチる為に食糧や推進剤や弾薬を減らすのいるけど、私の後輩なら許さないからね」
「うっす」
ベニマルが胸を外した。
胸が外れたわけではなくPDAの携帯端末だ。真っ平なのはPDAを付けていたからかと思ったが、彼女は外しても貧乳だった。
「定期が便利ね。自動で補充してくれるよう契約しておく。絶対じゃないけどほとんどのステーションに寄ったときには積み込んでくれるサービスよ。手間も掛からない。待ってれば仕事をしてくれる」
「じゃあ、それでお願いするよ」
「オッケー。排泄物処理やら全部含んだパッケージにしましょう。ドジャー号は戦艦で大きいしクルー不足なら少しでも自動化するほうが楽よ」
「ロボットを雇用するの?」
「それもあるけど、ナマモノと話してみるのもオススメ。雇わなくても知り合いは沢山作っておきなさい。しがらみもあるけど便利よ」
「了解です、ベニマルさん」
「ベニマルで良いわよ、ドザ」
と、ベニマルはPDAを見せてくれた。
カタログだろう。
文字が羅列してる。
全然わからん……。
「いっぱいだ」
「……そうね? どれが欲しい?」
「よくわかんないんだけど……」
「自動調理があるならペースト食材が保存や料理のバリエーションに良いわね。メーカーも推奨しているから機械にも優しい。自然のままをそのまま放り込んでも良いのだけれど、やっぱり合う規格があるもの」
「そうなの?」
「有名な話があるわよ。ある傭兵が分け前で揉めて相方を自動調理機に放り込んだ。でも調理機はローストチキンを出す前にミンチにした相方を爆発して船内は血肉塗れて笑い話」
「あんまり笑えなかったんだけど」
「感性は色々だもの」
培養肉や合成食品以外は高いらしい。
宇宙だし牧畜や農業は難しいわけだ。
地球の実家に帰れたら、ステーキや、トンカツ、唐揚げがたらふく食べられるのだろうか。少なくとも地球の生き物だ。きっと、食べられるだろう。
地球の家が恋しくなってきた。
まだ住所も知らないけど……。
きっと。地球にある筈なんだ。
俺は改めて、覚悟を固めた。
「地球が恋しくなるよ」
と、俺がこぼしたら、ベニマルがキョトンとした顔をした。作り物ではない。素の驚きらしい。彼女は目を丸くしたまま言う。
「あんた『地球産』なの?」
「記憶が曖昧だから確かじゃないけど、ステーションには無い光景に家があったんだ。大気も海もどこまでもあって、巨大な山、風が肌を撫でて、季節を体いっぱいに受ける場所だから」
「そりゃまあ地球ぽいね」
「でしょ? 地球の家を探しているんだ。ドジャー号は片道でも推進剤がキツイし、地球圏に入れるかもわからないけどね」
「今のままじゃ無理ね。地球に入るには通行証がいる。でないと防衛プラットフォームから核弾頭で、ひゅーん……ぼむ! だよ」
「ベニマル、通行証てどうやったら手に入るのかな。家に帰りたいんだけど」
「ホームに帰りたい気持ちは……わかるけど諦めて。A級資源衛星を2、3個丸々、良い相場で売らないと手に入らないような金がいるわよ」
「戦艦の戦隊ができる額じゃん……」
「そうよ。だから諦めなさいな」
それでも唯一の記憶なのだ。
俺のルーツ、俺の始まりだ。
覚えているのはそれしかない。
俺は地球にいた。
行ってみたいとまだ思ってる。
取り敢えず稼ぐ手段探すかぁ。
「ん?」
先が長そうなプランを考えていると『揉め事』が視界の端に引っかかった。女の子がネアンデルタール人に襟を掴まれて服を伸ばしながら引かれている。
路地裏に吸い込まれていた。
何かの虫の捕食かのようだ。
しかし『人間の狩り』だった。
「ちょっと」
と、ベニマルが俺の頰を指で突く。
「関わらないほうが絶対良いわよ」
そうかも知れない。
ベニマルは正しい。
だが、俺がテーブルを立った。
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