第54話
第七ゲーム、結月はRPGの舞台設定にありがちなダンジョン内を紗蘭と共に歩いていた。今回はこのダンジョンから脱出することがクリア条件である。二人は時に異形のモンスターと死闘を繰り広げ、またある時は四択クイズに答えながら順調にゲームをこなしていた。
しかし、無傷の紗蘭とは異なり結月は素人かと見紛うほどの重傷を負っている。制服の至るところが裂け、スカートは既にボロボロの状態だ。
「結月さん、一体どうされたんですか? あの程度の敵に苦戦するなんて……」
「うぅ、面目ない……」
背後からの奇襲に気付かず、衝撃を伴って吹き飛ばされた結月を庇いながら紗蘭が言う。ゲームが始まってからいまいち集中できていない。花蓮の死が尾を引いてしまっている。しかも昨日はしばらく連絡を取っていなかった莉乃からゲームの誘いがあった。
その事も頭の片隅で渦巻き続けている。背中の痛みを堪えて立ち上がり、結月はため息をついた。やはり人付き合いは面倒だ。ここまで自分のコンディションに影響が出るのだから。
「ねぇ、紗蘭ってどこまで他のプレイヤーに干渉してる? 特に後輩」
「干渉、ですか? 私は関わり過ぎないようにしてますよ。あんな思いをするのは、一度きりで十分ですから」
結月の前を歩いていた紗蘭が振り返りつつ答える。あんな思い、と紗蘭は言った。それを聞いて結月は紗蘭の過去を思い出す。確か、親しくしていた友人を亡くして一時期ゲームから離れていたのだったか。
そんな経験をしていれば、自分のプレイヤー生活を守るために他者との関わりを必要最低限にするのも頷ける。
「まぁ、そうだよね」
「……どなたか気になる方でも? もしかして、莉乃さんですか?」
「うん。零さんとか唯斗さんとかにはさっさと見限れって言われちゃってるんだけどさ。なんか、放っておけなくて。どうすればいいのか、分かんなくなっちゃった」
初めて他人に溢した本音。紗蘭は少しの間考え込んでいたようだったがすぐに口を開いた。
「結月さんは、どうしたいんですか?」
「私? そりゃ、見捨てた方がいいのは分かってる。私はまだ十回もクリアしてない初心者だし、自分のことで手一杯だし……」
頭では理解しているのだ。知り合いが一人死んだくらいで調子を崩す自分に誰かの分まで背負うことはできない。莉乃のことを想うからこそ、もう関わるべきではない。少なくとも、自分の道を定めるまでは。だが。
「結月さん、それは人の生き方ではありません。結月さんはもう少し自分の心に従っていいと思います。私には、一緒にいてあげたいって聞こえましたよ?」
「……」
分からない。何が正解なのだろう。今まで一度も、自分の感情で動いたことはなかった。いつだって理論的に、導き出した最適解に則って。
それは間違えたくなかったからだ。失敗したとしても自分を納得させられる理由が欲しかったから。感情だけで動いたら後悔してしまいそうだったから。だから気持ちは殺してきた。感情には気付かない振りで蓋をした。
そんな自分の生き方を、今さら変えることができるのだろうか。
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