第43話

 莉乃を部屋まで送り届け、結月は唯斗を自室に招き入れる。唯斗はベッドの上で結月を背後から抱き締めた。

 

「相変わらず距離感バグってるね、唯斗さん」

「そー? でも紗蘭ちゃんとかにはやらないよ? 本気で殴られるから」

 

 それはそうだろう。結月が抵抗しないのは、あくまでも唯斗が結月に危害を加えるような真似をしないからだ。ただ距離が近いだけならば、結月は特に気にしない。

 

「そっか、まぁいいや。零さんのこと、聞かせてくれるよね?」

「やっぱそのことかー。そりゃ気になるだろうけど」

 

 唯斗は結月の髪を弄りながら口を開いた。

 

「零はさ、もう何年もここでいろんなプレイヤーを見てきたわけ。だから何となくそのプレイヤーがどのくらい生きられるか分かるんだって」

 

 伸ばし放題の黒髪を手櫛で梳かし、唯斗はさらに続ける。

 

「だから、自分が長生きしないと思ったプレイヤーとは基本的に仲良くしないんだよ。あの子は、生きられないって判断されちゃったんだろうね」

「そうだったんだ……」

 

 結月は初対面の時から零に可愛がられてきた。故に零の態度は機嫌が悪かっただけだと思っていたのだが、そうではないらしい。零は零なりに考えた結果、莉乃を切り捨てたのだ。

 

「でも、あんな言い方しなくたって……」

「そうだねぇ。けどさ、零は結月ちゃんのためにああいう言い方したんだと思うよ?」

「それって、どういうこと?」

 

 咄嗟に振り向きそうになった結月を唯斗は優しく制す。結月は改めて前を向き直した。

 

「結月ちゃん、最初の頃より大分丸くなって、その分優しくもなったでしょ? 零は、そんな結月ちゃんが傷ついちゃうんじゃないかって思ってる。あの子が死んだ時にね」

「それは……分からない話でもないけど」

 

 結月が分かりやすく拗ねてみせると、唯斗は編み込みをヘアピンでとめて頭を撫でる。

 

「怜央にも釘刺されちゃったんじゃない?」

 

 隠すこともできず、結月は素直に頷いた。

 

「怜央は零ほど優しくないから、怒らせない方がいいよ。零も怖いけど、怜央はキレると手に負えなくなっちゃうし」

 

 それは何となく結月も分かっている。意外にも零は気に入った相手にはかなり甘い。結月が零に懐いているのは、大抵の我儘を容認して甘やかしてくれるからだ。だが、怜央が相手ではそうもいかない。前回のゲームで結月はそれを察していた。

 

「俺も、あの子とは仲良くならないことを勧めるよ。結月ちゃんに厳しい言い方はしたくないけど、あの子はこのゲームに向いてない。五回もクリアしないうちに死ぬと思う。零の見る目は本物だから」

「……」

 

 結月は何も言い返せずに俯く。唯斗の言っていることが正しいと思ったからだ。前回の第三ゲームも結月がいなければ恐らく莉乃は死んでいた。

 

「ごめん、ちょっと言いすぎちゃったね。俺はもう帰るから何かあったら連絡して。またゆっくり話そう」

 

 唯斗は再び結月の頭を撫でると、結月が愛飲している栄養ドリンクの缶を置いて部屋から出ていく。結月はその後ろ姿を黙って見送ることしかできなかった。

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