第31話

「なるほど、それは大変でしたね……」

 

 第三ゲーム終了後、結月はレストラン街にある喫茶店で紗蘭と落ち合っていた。

 

「うん。まぁ、結果的にはいい経験になったんだけどね。莉乃、今頃どうしてるかなぁ」

 

 注文したチョコレートパフェに口をつけながら、初参加だった少女のことを思い出す。

 

「もし気になるようであれば案内役に尋ねてみてはいかがでしょう。ハンドルネームを伝えれば部屋番号を教えてもらえると思いますよ」

「確かに、そうだね。ちなみに紗蘭は今回のゲームどうだった?」

 

 莉乃については後で考えることにして、結月は本題を切り出した。つい話が横道に逸れてしまったが今日の目的は情報交換だったのである。

 

「私はプールで宝探しをするゲームだったんですが、数回溺れかけたこと以外は特に何もなく終わりました。途中で罠に引っ掛かって足裏を負傷しましたが……」

「え、痛そう」

 

 紗蘭が罠にかかるのは珍しいな、と結月は思った。これも例のジンクスが関係しているのだろうか。とはいえ、こうして無事に戻ってこられたのだから何よりだ。

 

 と、結月がパフェを食べ終えたタイミングで携帯端末にメッセージが届く。確認してみると送り主は唯斗だった。

 

「どなたからですか?」

「唯斗さんだよ。レストラン街に来てるからここにもちょっと寄ってくってさ」


 結月が伝えると紗蘭はあからさまに嫌そうな顔をする。そしてホットサンドを口に詰め込み、立ち上がった。


「では私はこれで……」


 だが時すでに遅し。

 

「あ、唯斗さん」

「え……」

 

 結月が手を振ると唯斗はすぐに気がついたらしく、手を振り返してきた。

 

「紗蘭ちゃんじゃん。久しぶり、元気にしてた?」

「……ご無沙汰しております。唯斗さん」

「結月ちゃんに聞いたよ。四十回超えたんだって? おめでとー」

「はい、ありがとうございます」

 

 紗蘭は愛想笑いで唯斗に応じると、テーブルに置いてあった携帯端末をポケットに突っ込む。

 

「私はこれから用事がありますので、これで失礼いたします。じゃあ結月さん、あとでまた連絡しますね」

 

 そして早口で捲し立てると嵐のような勢いで逃げ去っていった。その後ろ姿を呆然と見送り、結月は唯斗に問う。

 

「唯斗さん、紗蘭に何かしたでしょ」

「えー? 何もしてないよ」

 

 唯斗は適当にはぐらかしたものの、結月が「本当に?」と畳み掛けると笑って口を開いた。

 

「まぁ、前に一回飼ってあげよっか? って言ったことはあるけど」

「絶対それだよ。何でそんなこと言ったの」

「だってあの時紗蘭ちゃん、友達が死んじゃってゲームに参加したくないって泣いてたから」

 

 それにしたって他に何か言いようがあっただろうと結月は思う。

 

「でもさ、この業界じゃよくある取引だしそんなに毛嫌いしなくても良くない? 結果的にあの子が今でもゲーム続けられてるのって俺のおかげだし」

「そうなのかもしれないけど紗蘭的には嫌だったんじゃない? ほら、紗蘭って自由になりたくてここに来たようなものなんだし」

 

 彼女の過去を考えると、他人に飼われてまで生きたいとは思わない気がした。

 

「俺って結構いい物件でしょ?」

「それは紗蘭も同じだよ。で、今日は何の用?」

「あ、そうそう。零が顔見せに来いってさ」

「げ……」

 

 結月はミルクティーを飲み干して机に突っ伏す。今日は紗蘭と食事をしたら部屋に直帰する予定だったのだが。

 

「今日じゃなきゃダメ? 私疲れたんだけど……」

「ダーメ。零怒らせるとめんどくさいよ? ご機嫌取り大変だよ? 俺は助けないからね」

「そんなぁ……」

 

 どうやら拒否権はないらしい。

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