第25話

 廃ビルの中を慎重に進みながら、莉乃は先ほど結月と響の喧嘩を仲裁した少女の名前を教えてくれた。

 

「あの人、は香澄かすみさん、です。今回で六回目の参加だって、言ってました。その、響さんも、同じみたいで」

「そうなんだ。あ、あれは? 美玲に引っ付いてるプレイヤー」

「えっと、和奏わかなさんですね。八回目らしいです」

 

 あんなに泣いていたのによく名前と回数を覚えていられるな、と結月は感心する。

 

「莉乃ってどういうゲームが得意なの?」

「わ、私は、謎解きとか、パズル系のゲームが、得意です」

「へぇ、すごいね」

 

 莉乃の緊張を解すようにとりとめのない会話を続けていると、廊下を懐中電灯で照らしながら歩いていた美玲が足を止めた。

 

「ここが行き止まりのようですね。先に進むには鍵が必要です。全員で手分けして探しましょう」

「はい! じゃあ和奏はこの部屋を探してきますね!」

 

 そう言って和奏は行き止まりから最も近い部屋に飛び込んでいく。そのあとに続いて、香澄や響もそれぞれの部屋に向かった。

 

「私たちは一緒にやろう」

「……はい」

 

 同調圧力に負けて一人で部屋に入ろうとする莉乃を結月は引き留める。だが美玲は迷惑そうに眉をひそめた。

 

「あなたたちは一人で行動することもできないのですか? 二人で一部屋の捜索など時間の無駄です」

「私はともかく、莉乃は今回が初参加だ。一人にした方がむしろ危ない。それに見落としがあっても困るでしょ?」

「……勝手にしなさい」

 

 美玲は明らかに納得していない様子だったが、結月に言い返すことなく背を向ける。結月は響が捜索している右隣の部屋を選んで扉を開けた。

 

「莉乃はここから動かないで。私に何かあったら、すぐに部屋を出て誰かに助けを求めるんだ。いいね?」

「は、はい。分かりました」

 

 結月の指示に従い、莉乃は扉の前で立ち止まる。結月は室内を見渡し、罠の類いがないか観察した。床や天井に入っている不自然な切れ目は罠の可能性が高い。引き出しや扉を開ける際も細心の注意が必要になる。これは第三ゲームに挑む前の二週間で零から教えられたことだ。

 

 どこかのオフィスをイメージしているのか、室内には無数の机が乱雑に設置されている。結月は扉に近い机から探すことにした。慎重に、だが手早く引き出しを開けていく。そして一番奥の机の引き出しに手を掛けた結月はわずかな違和感を覚えた。

 

(この引き出し、固くて開けにくいな……)

 

 自らの直感を信じ、結月は机の正面から真横へと移動する。位置的にやや無理のある体勢で結月が引き出しを開けると、中から銀色に輝く針が飛び出してきた。それもかなり太い。正面から開けていたら危なかっただろう。数十秒間待って他に発動する罠がないことを確認し、結月は引き出しの中を漁り始めた。

 

「あった……!」

 

 すぐに扉の鍵とサバイバルナイフを発見し、結月は莉乃を振り返る。鍵を見せると、莉乃は安心したのか笑顔で何度も頷いた。ナイフは制服のポケットに隠し、来た道を戻って莉乃と合流する。

 

「見つけられて、よかったですね」

「うん。ひとまず皆のところに戻ろう」

 

 部屋の外では他の四名が苛立たしげに二人を待っていた。

 

「遅いですよ! 一体何をしていたのですか!」

「悪いね。でも鍵は見つけたよ」

 

 結月はそう言って鍵を美玲に投げ渡す。だが美玲はその鍵を取り落とし代わりに和奏が拾い上げた。

 

「鍵を見つけたくらいで偉そうに……」

「その鍵一つ見つけられなかった和奏に言われたくないな」

「そんなのただの運よ! どの部屋に鍵があるかなんて誰にも分からないんだから!」

「運も実力のうちって言うけどね」

 

 再び一触即発の空気が結月と和奏の間に流れる。だが意外にも美玲が和奏をたしなめた。

 

「構いません、和奏さん。先に進みましょう」

「……はーい」

 

 和奏も美玲に逆らってまで結月とやりあうつもりはないのか舌打ちを残して去っていく。そして一同が行き止まりの扉を開けるとその先には階段が続いていた。が、問題はそこではない。階段の左側の壁にはタイムリミットと思われるタイマーが、取り付けられていたのだ。

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