第21話

 二日目のトラブルを除けば、結月と紗蘭は順調にゲームをこなしていた。怪我らしい怪我もなく最終日を迎えた二人は、洞窟の中で最後のミッションを待つ。

 

「この調子でいけば今回のゲームは生存率八割を上回れるかもしれませんね」

 

 紗蘭が携帯端末の生存者欄を確認しながら言った。これは今日の朝九時に運営から発表された情報である。

 

「ようやく水とおさらばできる……。アイス食べたい……」

 

 結月はペットボトル一本分の水を飲み干し、忌々しげに吐き捨てた。

 

「でも結月さん、一昨日零さんにアイスおごってもらってたじゃないですか」

「それはそうだけど、毎日食べたいんだよ。紗蘭も買ってもらえばよかったのに」

「私は結構です。あの方に借りを作りたくないので」

 

 甘いものに飢えすぎた結月は一昨日拠点を訪ねてきた零にアイスをねだり、今まで食べたことがないような高級アイスをおごってもらった。もちろん紗蘭には全力で止められたのだが。

 

 やがて日が落ち始めると、端末から聞き慣れたブザーが鳴り響く。続いて自動音声が再生された。

 

『プレイヤーの皆様にお知らせいたします。現時刻をもって最終ミッションをスタート。ゲーム終了までの三時間で、より多くの魔物を討伐しポイントを獲得してください。ポイント獲得数上位五十名のプレイヤーをゲームクリアといたします。なお、これまでに獲得したポイントについてはご自身の携帯端末からご確認ください。では、ご武運を』

 

 そして無慈悲に音声は途切れる。結月と紗蘭は揃って凍りついた。生存率八割など、とんでもない。現時点で生き残っているプレイヤーは八十五名。ここから三十五名が強制的に間引かれるのだ。

 

「結月さん……」

「とりあえず、確認しよう」

 

 二人は急いで端末を操作し自分のポイントと順位を確認する。紗蘭は八十五位中、五十三位。結月に関しては下から数えた方が早い順位だった。二日目の討伐ミッションに参加できなかったことが今さらになって悔やまれる。まさかこんな手段でクリア人数を削られるとは思ってもいなかった。

 

「紗蘭は今からでも、頑張れば生存の望みがある。私は大丈夫だからすぐに行って」

「結月さんは、どうなさるんですか?」

「どうにかするよ。まぁ、助けてもらえるかは分からないけど」

 

 その言葉で結月の考えていることが分かったらしい。紗蘭は首を横に振った。

 

「零さんに頼るおつもりですか? やめてください、私がサポートしますから」

「それは駄目だ。紗蘭だって安全圏にはいない以上、私に付き合っていたら獲物の奪い合いになる。でも現状一位の零さんなら手を貸してくれるかもしれない」

 

 結月は紗蘭の反対を押しきって零に電話をかける。三日目に拠点まで送ってもらった際、連絡先を交換していたのだ。

 

『俺だ』

 

 幸い、零はすぐに電話に出てくれた。

 

「零さん、お願いがある。助けてほしい」

『……』

 

 口調に焦りが滲み、つい早口で捲し立ててしまう。だが、零から返事は返ってこない。

 

「零さんにしか頼れないんだ。お願いします、助けてください」

『……』

 

 さらに続く沈黙。無理か、と結月が諦めかけた瞬間、零は口を開いた。

 

『……まぁいいだろう。ギリギリ及第点をくれてやる』

「ほんとに?」

『あぁ、ひとまずお前は正攻法で魔物をできる限り討伐しろ。俺がしくじった時のためにな』

 

 結月は思わず息を吐いてその場に座り込む。零に見捨てられたら諦めて死ぬしかなくなるところだった。

 

「零さんは、どうするの?」

『そうだな、俺は……』

 

 そして零の口から放たれた衝撃の裏技・・に、結月は愕然とする。

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