第3話「恐怖の学園生活」
「……え?」
見合い相手の家に菓子折り持参で土下座外交した帰り、父の仕事部屋に呼び出された。
奥様大号泣からの往復ビンタが痛い。
ちょっとぽっちゃりしたお姉様だった。
美人だし良い人なのだろうな。
会ってみれば若々しく感じた。
申し訳ない気持ちが頰の痛みに重なる。
「お前、自由開拓者として家を継げないぞ。件のお宝発見の功績で、貴族政務庁からお前を騎士爵の爵位を与えると通達だ」
だが、と、アルダープ父上は続ける。
「生白い貴族の上級クラスではない。下級クラスだ。普通の騎士や商人、世俗の通じる連中が通うクラスだ。気負うことはない」
「そういうものですか……」
決まったことなら仕方がない。
だが学園生活に一抹の不安だ。
前世では学校生活失敗したぞ?
変人扱いだった。孤独青春だ。
「お前が拾ってきた娘っこも連れて行け。1人よりは安心する。側に女の1人もいないようじゃナメられるし、少しは女の風に当たっておかないと酷い目に遭うぞ」
「ご冗談を、アルダープ父上」
アルダープ父上?
俺は、彼の顔を見た。
微塵も笑っていない。
「悪い話じゃない。男子はいつか独立する。家とは別にな。羽根を伸ばして飛んでみせろ、モウロ」
「と、言われても……」
正直、困る。
いきなり別生活は緊張する。どんな場所なのかさえ知らない。一応、1人ではなくバジルを連れて行けと言われているだけ少しは安心感あるが……。
俺の不安な顔が出ていたらしい。
アルダープ父上が楽し気に言う。
俺はこれからに恐怖した。
基本、父はそんな顔をしない。
よっぽどのことがあるのだ!!
とはいえ俺に断る権利はない。
行けと言われたなら行くしかない。
学園とか学校に良い思い出無いが。
◇
「モウロ、どうかしたの?」
主人公擬きである褐色美少女バジルが、買い食いしながら訊いてきた。
アホみたいな顔だ。
クールビューティーな美女系なのに。
バジルはアホみたいな顔をしている。
美女だからナンパもされていた。
学生服を着た気取った輩にだぞ。
けッ! でもちょっとわかるぞ。
バジルは……美少女ばのである。
じゃあ俺は何か?
高貴ぽい人間に当たり屋されて、あわや身包みと金品を巻き上げかけられたくらいの搾取しやすそうな風貌らしい。
家を出たのは間違いな気がしてきたぞ。
「バジル、美味いか? なに食ってんだ」
あっ。口元を脂で汚してる。
まったく。ハンカチで拭く。
バジルは少し鬱陶しがりながらも、形の良いぷにぷにした唇や頰をもにゅもにゅされても、止められはしなかった。
「美味い。モウロにはあげない」
と、バジルは、ぷいっと買い食いしていた物を隠す。市場に店を出していた早食屋の揚げ物だ。お品書きではクラーケンのゲソ天である。
美味そう。
ヨダレがでかけて俺も同じ物を買った。
「美味しい」
ゲソ天の味がした。
そんなこんな俺ら2人が買い食いしているのは、入学することになった学園……の、周りにあるささやかな町で食べ歩きしながら目的地を目指している。
フィルステレ学園だ。
この世界と似ている前世の恋愛ゲーム『比翼のアルジェンヌ』では重要な舞台であるのがフィルステレ学園なのだが、それは、発見された主人公モニカが保護される場所であり、王族貴族やらの攻略される男達と出会う舞台だからだ。
メインステージにいるわけだな。
「……」
ゲソ天を食べながらモヤモヤする。
あらためて、ヒロインが攻略する対象の地位がどこにいるのか、自分を見ると理解させられる。視界にも入らないだろう身分格差だ。
比翼のアルジェンヌの攻略対象は、みんな高い地位についている。あるいは将来が有望だとか天才だとかだ。少なくとも、何の地位の無いゼロな主人公であるモニカ嬢をリフトアップするのが男の攻略対象なわけである。
なお、俺とは学級から違う。
別世界の雲の上の天上人だ。
考えても仕方がない。
こういうのも含めて俺だ。
バジルて相棒もいるし、悲観するな、俺。それはそれとしてモニカ嬢に言い寄る男達がいることを想像するとモヤモヤする。自分は合わない、だが、他人がいるのもなんか嫌だ。
「え〜?」
バジルから目を離していたら、ませた学生らが彼女を口説いていた。まったく……俺はバジルの手を強引に引く。
我ながら面倒な性格だな……。
モニカ嬢いるかわからないしな。
今、考えても仕方がないさ。
「祭りでもあるのかて賑わいだな、バジル。それともフィルステレは元々こうなのか? 地元と随分違う」
「あれ」
バジルがゲソ天で指した。
大名行列かな?
人垣に、大勢の人が動く。
追っている動きだ。
中心にはオーラが違う人々だ。
俺の知っている人間が。いた。
「公爵家とその取り巻き」
「お偉いさんなわけか」
「次期国王に次期大臣」
「世襲てすげぇ〜」
見れば、堂々と目立つ集団だ。『巨大人型兵器の一団』が外套と旗を靡かせ目に入らないというなら節穴どころではない。その巨兵の一団に女性陣をが黄色い声援を送る。
比翼のアルジェンヌには巨大ロボがいる。そういう世界観だ。乗っている人間は騎士で、特例で従士の称号を持っている者も乗れたりするんだったか?
ゲームの設定を思い出しながら見た。
あッ、コクピットから箱乗りしてる。
人間が体を出して丸見えになってる。
王太子殿下に大臣や豪商やら他国の皇太子やら大物達が仲良く揃っている。フィルステレ学園の超有名人がみんないるならそりゃ人も集まるよな。
「けッ!」
比翼のアルジェンヌの攻略対象だ。
主人公のモニカ嬢に愛されて、好意を向けられ、添い遂げるパートナーらでもある。そんな事実が、俺の心をもやもやさせる。だが幸いというべきか不幸なのか、その有名人らの中にモニカ嬢はいない。
出会いのイベントはまだなのか?
モニカ嬢は入学式に来るわけじゃない。遺跡で彼女が発見されてからフィルステレ学園に来るわけで……少し前くらいの時代なのだろう。
王太子だのの周囲には大臣の息子など大物が並んでいる。比翼のアルジェンヌでは攻略対象だった男達だ。俺は、ちょっと好きじゃない。
攻略対象の婚約者達もその場所にいた。
彼らは主人公と結ばれなければ、許嫁として決まっている婚約者と結婚するので不幸になることはない。無いのだが……モニカ嬢と結ばれるルートだと婚約は破棄されるイベントが起きる。
ドロドロとした後味悪いとかはない。
無いのだが……やっぱり好きじゃない。
嫉妬だな。
愛されているのに、愛した女を捨てる決断が、モテたことのない俺にはわからないから拒否反応があるんだろうな。
あッ、行っちゃった。
攻略対象のわかりやすいヘアカラーの、赤、青、緑、黄、紫しか見えなくなってしまった。
いつまでも見ていても仕方ないだろう。
「学生寮に行こうか、バジル」
見ていても面白くない。
繋いだままのバジルの手を感じながらフィルステレ学園の学生寮に駆け足した。華やかな集まりに背中を向けた。
これは俺の物語ではないのだ。
◇
豪華な学生寮だった。
寮というよりはホテルだ。
俺の知ってる学生寮は、電気代節約で薄暗く、脱走しないよう窓に鉄柵があり、下品な落書きや煩い感じの場所だったが全然違う。
下級クラスの部屋なので、本物の貴族や王族みたいなのとは比較にならないほど劣っているのだろうが、個室だし、ちょっとベッドにダイブしてはしゃいだ。
「あれ?」
と、開けっぱなしだったドアから覗かれてしまう。だが覗いてきた訪問者の様子がおかしい。
「新入生だよね。なんでまだいるの?」
新入生歓迎会に俺だけ呼ばれなかった。
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