第4話いつもの昼休みのはずが

「ねえ、ねえ僚太くん。お昼一緒に食べよ」

普段通り過ごしていたが4時間目が終わった後凛花が話しかけてきた。

「え?」

「良いでしょ?」

問答無用といった感じに僕の前の席を動かし対面に座った。

こうなると断るよりもそのまま好きにさせておく方が早い。

「勝手にしてくれ」

この態度はまだ、人見知りをしているのと相手が告白してきた相手ということにある。

周囲がざわざわしているがまあ、当然のことだ。

陰キャに近づくクラスのマドンナ、どう考えても不釣り合い過ぎる。

かといって僕が断ったところで僕への非難が殺到するだけだ。

弁当を開けるといつもの冷凍食品詰め詰めの物とは異なり朝調理して入れたであろう物ばかりであった。

「どう?私が作ったんだ」

聞かれては誤解される言葉をあえて大きく言ったな、これ。

「そうなんだ。いただきます」

ここで否定すればより周囲の目を引く、そう考えそっけない言葉と共に一口食べる。

「・・・・・・うまい」

考えるよりも先に声が出ていた。

そりゃあ冷凍食品だって美味しいがそれとは違う美味しさがあるように感じた。

「ありがとう、嬉しい」

その笑顔にドキッとしたが表には出さないようにして食べ進める。


「ごちそうさまでした」

早くこの状況を終わらせたかったためか普段よりも大分早く食べ終わる。

「相変わらず早いね。一緒に食べている人がいるときはペース合わせないと。モテないよ?」

「余計なお世話だ」

「まあ、私的にはその方が良いんだけどね」

弁当を片付け席に戻る。

「あれ?待ってくれるの?」

「別に普段と同じ動きをしてるだけ」

そう、別に凛花がいるため戻ってきたのではなくあくまでいつも通り動いているだけ。

机の中に常駐させている数種類の本の内一冊を選んで読み始める。

読み始めて冷静になり気がついたがいつの間にかタメ口になってる。

呼び方の時といい本当に自然すぎて気づくのが遅れてしまった。

さすがに今さら戻してくれなんて言えないため放置だ。



今まで共に戦った者達が徐々に俺のもとから去っていく。

しかし、アリスだけは未だに俺のそばにいた。

「なあ、アリスどうしてお前はそこまで俺を信じてくれるんだ?あんなことをしてしまった俺に・・・・・・」

「私はあなたがコホラを作り復讐を決意した日からずっと見てきました。

だからこそ信じられます。あなたの強い決意を知っていますから。私はどこまででもついていきます」


 

「ねえ、何読んでるの?」

その言葉で現実に引き戻される。

「小説」

短くそう答え続きを読もうとするが、

「それだけじゃわかんないよ」

「コホラ」

今度は作品名を言い続きを読もうとする。

「あ、最近アニメやってるやつでしょ?知ってる。コホラってハワイ語でクジラでそのクジラはとある小説では復讐の象徴になってるんだよね?」

確かにそうである。これはコアなファンが調べたのだが、そこからハワイ語でクジラという意味のコホラという言葉を使ったのだろうというのが通説になっている。

そのとある小説ではクジラは復讐をする側ではなくされる側なのだが、そんなことはどうでも良い。

クジラが復讐の象徴になっている作品があるのは事実なのだから。

「よく知ってるな」

「そりゃそうだよ。アニメは最新話まで追ってるし漫画も一昨日出た最新巻を買えば追いつけるから」

この人オタクっぽいとこあるんだな。

昨日から急激に印象が変わり始めている気がする。

ただ、遠くにいると思っていた存在が思ったよりも近そうなことが少し嬉しくて、

「家にあるよ。最新巻」

ついそう言ってしまった。

「ほんとに?今日帰ってから読んでも良い?」

「いいよ」

もう後には引き下がれなかった。

だって周りが、

「り、凛花様がお持ち帰りされてる!?」

「田中やってんな。山根先生来ないかな」

「なんか今日の凛花ちゃんおかしくない?」

「あんな陰キャどこが良いんだろ」


等々様々な声が周りから聞こえてくる。

なんというか僕の悪口も含まれていた気がするが誰かもわからないし放っておこう。

まあ事情を知らない人が先程の会話を聞けば勘違いする可能性は高い。

明日持ってくれば良いものをわざわざ家で・・・・・・

まあ、僕も他の人がこういうやり取りをしてたらそういうことかと思ってしまう。


「そういえば部活は?」

「コンテストが終わったばかりだからしばらくは行かなくても大丈夫かな」

少し話しやすくなったため気になっていたことを聞いてみた。

彼女の答えに一瞬疑問を覚えたがそういえばと思い出した。

彼女が入っている部活はコンテストの前以外は自主連という感じの部活だったことに。

「良いのか?今までずっと休みなしだったのに」

「え?私のこと見てたの?」

何故そこで少し嬉しそうにするんだ?

「いや、図書室から音楽室見えるし」

「そっか。読書部だもんね」

今度は露骨に寂しげになった。

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