第3話聞いていた話と違った
「なんで、ここに?」
何故か家にいた立花凛花に唖然としながらもそう問う。
「今日からお手伝いをすることになりましたから」
は?いや、ちょっと待て。確かに学生だとは聞いていたが、高校からでは距離が遠すぎる。
「りょう。良い子なんだから手は出すんじゃないよ?」
見えないところからお母さんの声が聞こえてきた。
何かを焼いている音と美味しそうな匂いがしているため台所で料理をしているのだろう。
ちなみにお母さんは僕のことをりょうと呼ぶ。一文字しか省略できてないため有用なのかわからないが。
「そんな気無いって。それに僕には・・・・・・」
「僕には?」
凛花に問い詰められるが、
「なんでもない」
そう答えて荷物を自分の部屋に持っていく。
◆
僚太が自分の部屋に行った後、凛花は手伝うため台所に来ていた。
「それにしても良いの?」
僚太の母親がそう問う。
「はい」
二人はこれだけで意味がわかっているようであった。
◆
夕食の時間。今日はいつもと違い少しテーブルが狭い感覚におちいる。
それもそのはずでいつもよりも一人多いからだ。
聞いた話によればお手伝いをする対価として食事もあるため文句は一応なかったのだが、
「それにしても凛花ちゃん、なんで家の手伝いをする気になったの?」
お母さんがそんなことを聞いた。内心すごく驚いた。
お母さんはしっかりしており、そういう情報は先に聞いているものだと思っていた。
「実はお引っ越しの準備をしてて、早めに家を片付けたかったらしくてもう生活するのも難しい感じになっちゃってそれで・・・」
「誠郎さんは大丈夫なの?」
「はい。仕事場で寝泊まりしているみたいで」
話の流れからして誠郎さんというのは凛花の父親だろう。
にしてもなんか知り合いっぽいな。
「まあ、元々物置の部屋だったから少し狭いけど我慢してね」
「はい。お気遣いありがとうございます」
うん?
「ちょっと待って」
「急にどうしたんだ?箸も置いて」
「聞いてない」
「ああ、りょうは頼んでも物置の整頓してくれなかったものね」
僕が言いたいのはそういうことではない。
確かに家の物置は散乱しておりとても人が住める部屋ではなかったが、
「なんで泊まることになってんの?」
「なんでってそういう条件でお手伝いしてもらってるんだもの」
「は?」
そんなこと聞いてないぞ。そう思いお父さんを見るが、
「うん?言ってなかったか?」
「はあ、もう良いや」
今さら知ったところでどうすることも出来ないため諦めることにした。
その後、僕はあまり会話に入らず黙々と夕食を食べ進め、一番に食べ終わると自分が使った食器を台所に持っていき自分の部屋に直行した。
何より今日告白してきた女性と夕食を食べるなど、どうしようとも意識してしまう。
宿題は昼休みの内に終わらせていたため読書をし、冷静になるように心がけた。
◆
「本当にあのままで良いの?」
僚太の母親は再度凛花に問う。
「良いんです。私も少しフライングしすぎてしまったみたいで・・・・・・」
「全く、りょうったら・・・・・・」
ここでもまた二人にしかわからない会話が行われていた。
◆
翌朝。昨日はよく物語でありがちなお風呂で裸を・・・なんてことはなく、必要時以外は全て自室にいたためほとんど関わってすらいない。
「おはよう、僚太くん」
この挨拶によってもしかしたら夢だったんじゃないかという希望は潰えた。
「おはよう」
そういえばいつの間にか呼び方が変わっている。
自然すぎて気づかなかった。
いつもと同じ時間に家を出るが凛花も一緒というのがいつもと違っていた。
車は動き出してすぐに止まり、
ウィーンという扉が開く音と共に
「すみません、今日もお願い・・・・・・」
貴史が乗り込んで来るが凛花に目が止まり不思議そうな表情をしている。
「あ、広川さんでしたよね?お邪魔してます」
「はあ」
未だ疑問は残っているのだろうがとりあえず座りシートベルトをつける貴史。
車が再び進みだしたのをかわきりに二人の小声の会話が始まった。
「どういうこと?」
「僕にもわかんない。でも、少しの間続くのは確かかな。はっきりしてるのは昨日の店の手伝いをしてくれる人ってのが・・・・・・」
「なるほどね。でもなんで嫌そうなんだ?」
「いや、それは・・・・・・」
その反応と昨日の自分の顔をどう思うかという発言から貴史はある程度察した。
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