第2話いつもの日常のはずが
あの後僚太は図書室に来ていた。
彼の所属する部活は読書部。これまた陰キャが集まりそうなところであるが、図書室ではそもそも静かにしなければならないため他の人がどうなのかは知る由もない。
そのため部活内での会話はなく、30分以上完全下校時間以内で読書をするというもの。
一年生は必ずなにかの部活動に入らないといけないため、他にやりたい部活がない生徒の大半がここに集まる。
僚太はどちらかと言えば読書が好きなため入部した。
互いに干渉しないため人見知りの僚太にとっては過ごしやすい環境であったというのもあるだろう。
彼が読書を好きなのは目に見えて分かりやすいもので、家から本を持参し何種類かのブックカバーを使い回している。
ブックカバーというものは一つあるいはサイズの違いを考えても二つあれば十分である。
ならば何故彼がブックカバーを何種類も持っているのか。それは彼の特技が影響しているだろう。
彼の特技とは違う種類の本を同時進行で読むこと。普通は一冊読み終われば次の一冊となるが彼の場合は平気で五種類の本を同時進行で読んでいたりする。
常人がそれをすれば話がゴチャゴチャになりどれがどの話なのかわからなくなったりするだろう。
しかし、彼の場合は情報の整理が上手く完全に理解出来ていた。
僚太はこれを普通だと思っている節があるが・・・・・・
そうしてしばらく経ってから彼は図書室を出た。
そうして高校の自転車置き場へと向かう。
そこには少し疲れた様子の広川貴史、彼の親友とも言える存在がいた。
「お疲れ~」
「うん、お疲れ。別に毎日僕を待たなくても良いのに・・・・・・」
お疲れと言いながら近寄ってくる僚太に別に待たなくても良いと言う貴史。
彼の言うとおり僚太は30分読書をすれば帰ることが出来るのだ。
「それ、何回目だよ・・・・・・」
「友達作れば良いのに」
「それも何回目だよ」
このやり取りは高校生になってから何回もしていた。
貴史は僚太とは裏腹にクラスに馴染み友人も結構いた。
自転車置き場で待ち合わせていた二人だが自転車で帰るわけではない。
その近くにある裏門から少し歩けば小さめの公園がある。そこで親の迎えを待つのが日課となっていた。
その公園に歩いて向かうとそこの駐車場には一台のよく見慣れた車が止まっていた。
暗くて見えなかったナンバープレートが近づくにつれはっきり見えてきて親の車ということがわかる。
その車に近づいていき運転席の扉を開けて、
「お父さん!起きて!」
僚太は今日一の大声を出した。
「うん、ああ僚太か。よし、帰るか」
「すみません。いつも乗せてもらっちゃって」
貴史がそういうが、
「良いんだよ。こっちも都合悪いときは任せてるしな」
お父さんは特に気にした様子もなく車のエンジンをかけた。
それを合図に僚太、貴史共に動きだし後部座席に座る。
授業の荷物と貴史はソフトテニス部でありラケットなどの荷物があるため少し狭く感じる。
しかし、いつものことなので馴れたものだ。
僕たちがシートベルトをしたのを確認し車は出発した。
◆
「そういえば原付の免許はいつ取りに行くんだ?」
お父さんが唐突にそんなことを言い出すのは夏休みに原付の免許がとれるようになるためである。
もちろん強制ではないのだが二人とも原付の免許を取りに行く予定である。
「それなら8月の17日に取りに行く予定です」
「そうか、じゃあ家もそこで行くか」
「うん。それにしても今日は早かったね」
「いや、人を雇ったんだよ。良い子だったから任せて来たんだ」
僚太の実家は自営業の小さな本屋だ。僚太の本好きはここからきているのだろう。
「幸夫さん、そんな余裕あったんですか?」
幸夫というのはお父さんの名前だ。そして貴史が言ったことは僕も聞きたい内容だった。
生活が出来るくらいは儲けているが人を雇う余裕は無いはずである。
「それがご飯と朝学校に送るだけでこの時間帯を手伝ってくれるらしいからさ。美奈子も了承してくれたし」
美奈子というのは僚太の母親である。
お父さんは前々から人を雇いたいと考えていたがお母さんが反対していた。
人を雇うことが出来るほど安定していないためである。
「学校に送るってことは学生か先生ですよね?大丈夫なんですか?」
貴史がそう聞く。確かにどちらにしても問題だ。
学生は学校に許可されていればバイトが出来るが長期休暇の間のみだ。
先生は公務員の副業は原則禁止されているためこちらもダメなはず。
「まあ、給料は払ってないからね。あくまでお手伝いかな?」
最後に「?」がついている辺り不安だがお母さんが許可したなら大丈夫だろう。
そこで一旦話が途切れる。そうなると僚太はあの事を考えてしまう。
「なあ、貴史、僕の顔どう思う?」
お父さんには聞こえないように小声で問う。
貴史もそれでなにか察したのか小声で
「良くも悪くもない普通だと思うぞ」
と返した。遠慮の無い言いようではあるがこれが本心なのだろう。
長い付き合いじゃなければそうは言えないだろう。
「やっぱ、そうだよな」
「急にどうした?」
「いや、何でもない」
貴史はもしかしてと思うがあえてそれを聞くことはなかった。
これも彼がクラスに馴染めた一つの理由なのかもしれない。
◆
車は家の少し手前で止まった。止まった車の隣には貴史の家がある。
「今日もありがとうございました。また明日」
「おう」
「また明日」
いつものやり取りを済ませ家に帰りただいまと言いながらリビングに入っていくと・・・・・・
「え?」
そこには立花凛花の姿があった。
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