平凡な高校生活を送る予定だったのに

空里

第1話突然の告白

「私と付き合ってくれませんか?」

その言葉が僕の高校生活を平凡でないものにしようとしていた。



僕は田中僚太、高校一年生。暗い性格というわけではないがこのクラスで一番の陰キャである。

その要因はまず人見知りという面にあるだろう。

そして、通っていた中学校と遠い高校を選んだことで中学時代の知り合いはほとんどいないということが挙げられるだろう。彼が通っていた中学校は小学校のクラスのまま引き上がっただけという感じだったため、幼い頃からの友人がおり、そこまで陰キャではなかった。

しかし、人見知りというのは変わらないため今の現状になっていると言えるだろう。

唯一の救いは彼の一番の親友である広川貴史がたまたま同じ高校に進学したことだろうか。

示し合わせたわけではなく本当に偶然志望校が被ったのだ。

このときばかりは普段勉強をしない僚太も必死に入試に向けて勉強したものだ。

やはり、友達が一人いるのといないのとでは違うのだ。

僚太も自分が人見知りであることを自覚していたため高校で新しい友人ができないことを悟っていたのだ。


そして、入学式の日。無事、杵伊良きねいら高校に入学することが出来たのだが、貴史と同じクラスではなく更には入試を張り切りすぎて一位になってしまい代表挨拶をさせられるという事態にみまわれた。

しかも、代表挨拶は台本があるからと当日伝えられるという散々な目にあうことになる。


初めのホームルームでは代表挨拶をしたということで学級委員をすることになる。

女子の学級委員は立花凛花。もちろん初対面である。

他の委員会は半期で交代するものもあるというのに学級委員は一年間だ。

人見知りの僚太からすれば地獄である。

学級委員は必然的に人との関わりが多くなるのだ。


初めは思いの外彼の周りにも数名寄ってくる人はいた。

しかし、人見知りな彼は親しくない人には表情を変えず感情を表に出さなくなる。

そんな彼の周りからは徐々に人はいなくなりいつの間にかクラスで一番の陰キャとなっていた。

が、彼のことを知らないクラスメイトはいない。

一つは彼が代表挨拶をしたから、もう一つは・・・・・・


「よし、授業を始めるぞ。立て、立て」

教室に入ってきた途端そういいながら教卓の前に立つ一人の男性。彼の印象は強面であり、ガッチリした体を持っているため体育教師のように見えるがそうではない。数学の先生である。

名前を山根利久。そして、その後ろには授業を補佐する彼の相棒といっても良い神田則夫がいる。

「気をつけ、お願いします」

『お願いします』

学級委員の仕事の一つである挨拶の号令。それを僚太はしていた。

「おい、た~な~か~。ちゃんとやれよ」

「先生逆です」

山根先生はとにかく明るい先生で生徒達からも授業中の雑談が面白いと人気である。

こうして授業の度に一度はこういういじりを受けるためクラスで僚太を知らない者はいなかった。

そして、そんな山根先生に冷静に突っ込むのが神田先生である。いつも冷静だが山根先生のボケにいつも対応しているためのりが良い先生であることは確かだ。

そして、山根先生が僚太のクラスの担任、神田先生が副担任である。



時が経ち中間考査が終わり結果が帰ってくる。

僚太の成績はというと、

国語 32点 数学34点 英語 31点 科学35点 公共34点

以上である。言っておくが100点満点のテストである。

欠点は30点以下のため全て欠点は回避している。

凄いのは全てギリギリだということだろう。彼は勉強が嫌いなため必要最低限しか覚えないのだ。

その結果が全教科赤点をギリギリ回避である。

普通、入試一位がこのような成績をとっていたら担任から事情を聴かれるか怒られるかされるだろうが、

「た~な~か~」という一言で終わらせた。山根先生の人気はここからもきているのかもしれない。



こうして時が経つにつれて女子の学級委員である立花凛花はクラスのマドンナと言われ始めた。

まずは容姿であるがもうどう表現して良いかわからないほど整った顔立ちをしている。

スタイルも良く、ボン、キュッ、ボンである。

その上勉強は学年一位。運動も体力テストで満点をとる。部活では様々な楽器を演奏しており、器用なことが知れわたっている。極めつけは性格が良いことにあるだろう。

穏和で怒っているところを見たことがある者もいない。誰に対しても同じように接し正に人間の鏡といった感じである。

彼女がいない男子は全員が狙っているといっても過言ではない。

しかし、僚太は少し違った意見を持っていた。

何か裏があるのではないか、こんな完璧な人間がいるわけないと。



放課後。僚太は凛花に呼ばれ他に人がいない教室にいた。

「山田くん、付き合ってください」

凛花は来て挨拶をした途端ストレートにそう告げた。

僚太は罰ゲームか何かだろうかと一瞬考えたが、彼女がそんなことをするのかと思ってしまう。

先程疑っていたのが嘘のように。もしかすると見栄を張っていたのかもしれない。

「えっと、何で?」

人見知りプラス動揺で捉え方次第では振ったと捉えられる言葉を言ってしまうが、彼はその理由が知りたかった。

「好き、だからです」

幸い僚太の意思と同じように捉えたらしい凛花が頬を赤らめながらそう言った。

その表情を見る限り演技ではなさそうである。

しかし、僚太の同様はマックスに高まっていた。

「えと、ごめん」

慌てて教室を出ていく僚太。そして、それを呆然と見つめる凛花。

「私はまだ諦めないよ、りょうちゃん」

その声は小さかったが彼女の確かな意思を感じることの出来るものだった。

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