『形見の目覚まし時計』
ごめんな吃驚させて。お前が泊まりに来るっていうのにアラーム切り忘れてたわ。
今どき珍しいだろ、アナログ式の目覚まし時計なんか。貰いもんっつーか、形見なんだよ。か・た・み。叔父さんの形見なんだ。
叔父さんは親父とはけっこう歳離れててさ。親戚の兄ちゃんっていう感じでよく遊んでもらってたんだ。嫌な顔しないで子どもの遊びに付き合ってくれる叔父さんが、親戚のなかで一番好きだった。
叔父さんが死んだのは、5年前かな? まだ若かったのにさ、心臓麻痺で。
夜の間に死んじゃって、朝になったら発見されて大騒ぎ。おじいちゃんもおばあちゃんも親父もめちゃくちゃ泣いてたけど、俺は実感が湧かなくてろくに泣けなかった。
んで葬式が済んだ後、おばあちゃんに叔父さんの部屋に連れていかれて。欲しいものがあったら持って行っていいよ、その方があいつも喜ぶだろうって言われて。形見分けってやつ。
その時に貰ってきたのが、この目覚まし時計。別に思い出がある訳じゃないよ。でもさぁ、目覚まし時計って、普通は枕元に置くだろ。だから、叔父さんが死んだ夜もきっとこの時計は枕元にあって、叔父さんが苦しみ出してから息絶えるまでの一部始終を、一番近いところで見てたと思うんだよね。そう思ったらどうしてもこれが欲しくなって、他の形見に紛れ込ませてこっそり持って帰ってきちゃったんだよね。
時々、さっきみたいに夜の適当な時間にアラームかけて鳴らしてみるんだ。アラームの音で目を覚まして、叔父さんが死んだのってこの時間なのかなって考えるのが、最近すごく楽しいんだ。子どもの頃、叔父さんと遊んでたときみたいに。
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