30 天沼矛 (あめのぬぼこ) - 植原尚寿
人としてのあらゆる表情が失せた白い紙のような顔で、頭から線路へ飛び込む父の姿が見えたところで現実へ還った。
当時の父母の意識と一体化しながら過去の出来事を体験した。だから、父と自分に対する母の愛情の深さも日々の喜びも手に取るように解った。少なくともあれまでの母さんは、息子のためなら命も捨てることが出来ると本気で思っていてくれたのだ。
また何よりもあの夜、父の姿を見失った時の母の驚愕と絶望も我が身の思いとしてそのまま体感できた。
長らく心に引っ掛かり続けていた記憶の情景が甦る。
十歳の頃、珍しく母が遊園地へ連れて行ってくれた。そこで宇宙船のアトラクションに夢中になり、母さんも一緒に乗ろうと何度も誘ったが、「楽しかったんなら、あんただけもう一度乗りなさい」と横を向かれた。
その後、回転する乗り物から見えたベンチの母はこちらを一瞥もせずに煙草を吸っていたのだが、そのうちに俯いて泣き出した。今、初めてその時の母の気持ちが理解できたような気がした。
母は真実は知らずとも、その無意識の奥ではそれに気づいていたとリーザも言っていた。
文面の終わりに書かれていた『神嶺薩貴子は二人の子供を交換した後、あなたの育ての母親に想像を絶するほどの残酷な仕打ちをしました。本人がその事実を知らないことが唯一の救いです』というほんの短い記述から、何故これほど鮮明な幻影を垣間見てしまったのか。
もしかしたら、リーザが哀れな自分に一時的な過去透視の力を授けてくれたのかもしれない。あるいはこちらの勝手な思い込みが映像になっただけか。
急に何かの気配を感じ、紙面から恐々と顔を上げる。いつの間にか目だけを異様に輝かせた真っ黒い母の顔に取り囲まれていた。
「人でなし」
頭の中へ直接、そう囁かれて気を失った。
「あっぢぃぃぃ・・・・・なんだ、ここ」
再び目が覚めると広大無辺の砂漠の中で座り込んでいた。目が潰れるほどの凄まじい日差し。しかし、太陽はどこにもない。空全体から放たれる夥しい熱と光が地表へ直に降り注いでいる。
上からの熱波攻撃だけでなく、砂に沈んだ尻の肉もジリジリと焼けている。自分が丸裸の姿であることにようやく気づいた。五官が受け取る感覚があまりにもリアルなので、少なくとも睡眠中の夢でないことだけは確かだ。
最後のリーディングでリーザが言っていた、異次元世界というのはここのことか。
想像していた以上に殺伐として居心地も最悪。そしてひたすら熱くて空虚だが、着ていた衣服や所持品の一切が消失したこの状況も符合するのでほぼ間違いないだろう。
「超越的でイレギュラーな意志の力? 土地特有の地霊? どういう意味? 」
地平線が見えない彼方へ向かってぼんやりと呟く。ロシア国防省お墨付きの透視能力者も良く解らないのに、自分なんぞが理解できるはずもない。速攻で考えるのを止めた。
悟りのようなこの心境を上手く言い表すことができないが、皆目わけが判らないながらにそれなりの覚悟が決まったというか、昼前から今までのうちにとんでもない出来事に遭い過ぎて、人間としてのまともな感覚が完全に麻痺しているようだ。自分で言うのも嫌だけど、まさに《人でなし》状態だ。
そのうち、ふと我に返ったら、泣いて発狂しながら悶え死ぬのかもしれないが、取りあえず今のところは大丈夫そう。それでもニースやモナコとはえらく違う。
「薫森祥子、ぜってー許さねえ」
あいつのことはともかくリーザと通訳のオバサン、それから成澤と川瀬くらいは無事でいて欲しい。だが、あの惨状ではそれすらも難しいだろう。
「あっ」
地平線とはまた違う朝焼け色にたゆたう彼方から、黒い影の一群がこちらへ近づいてきた。薫森以上にぜってー、ぜってー許せねえ奴だとすぐに判った。
緑地に赤色の斑が浮かんだ大蛇の群れが織り為す波の背に乗るような形でそれはやって来た。藤倉邸の前で見た黒い瘤だらけの女だ。
自分一人の力ではもう碌に動けないようで、蛇とも木の蔓や枝とも付かぬ代物に巻かれながら地表までゆっくりと降りてくる。
その四肢が砂上へ寝かされると、今度は周囲の風景がいきなり変化を遂げた。自分とその黒い女を中心にした半径数十メートルほどの周囲から次々と拗くれた枝木が伸び始め、あっという間に蠢き波打つ木立の壁が作り出された。
盛んにうねりながら際限なく伸び続けるその枝先が目に留まった。昆虫の触角や複眼や鉤爪のようなものがぎっちりと生えていて気色悪いことこの上ない。
「うわっ」
いきなり砂埃が舞い上がり、足許が大きく揺いだ。すぐ目の前の地の底から何かが迫り上がってくる。こちらは黒御影のような材質の石で作られた棺桶状の箱だった。
軋む音を立てながら蓋の部分が横へずれると、内側から黒いサマーコートを着た女が立ち上がる。虹色に煌めく閃光の帯が虫の羽音に似た振動を響かせながら、その全身の周囲を絶え間なく舞い飛んでいた。
四十二年前の夜、まだ若かった母を原宿駅近くの路上で助け起こした女。そして今日の昼前にはあのセルフカフェで自分のすぐ隣の席にも座っていた。
女は棺の縁を跨いで砂地へ足を踏み出すと、傍らに倒れている瘤だらけの黒い残骸の上へ覆い被さった。サマーコートの女が黒い女を吸い取るような感じでふたつの身体がひとつに融合していく。
「あー、人としての寿命はちょうど今、終わっちゃったみたい。命日は令和六年九月二十四日かぁ。おまえ、息子なんだから覚えとくのよ─」
そう言いながら振り向いてにっこりと笑った。
「それにしても、世界って不思議よね。一人勝ちをなかなか許してくれないのよね。何もかも思い通りで有頂天になってたら、カラダが少しずつ黒く腐り始めて、最後は醜い瘤だらけになって結局、こんな面倒臭いことまでやらなきゃいけない羽目になって」
因果応報とか人を呪わば穴二つとか、そういう基本原理について語ったようだ。
向こうが口を閉じたので、そのまま少しの間、無言で向き合った。
毎朝、洗面所の鏡に映る自分の顔の性別をまず女に変えて小顔に縮め、さらに二十年以上若返らせて、最後に超一流のビジュアルアーティストが完璧な修正を施すと、恐らくこういう顔になると思う。
瞳の色は鮮やかなエメラルドグリーン。単純に虹彩の色が薄いだけの自分とはかなり違う。父親はアメリカ人の軍属だったと聞かされたが、どこ系の白人だったのだろう。
神嶺薩貴子は笑いながらまた口を開く。
「うふふ。この世界でのわたしのカラダよ。向こうの現実だと実体を持てないけど」
「生き霊」
「ああ、あの馬鹿でかいロシア女の講釈? あれ、ちょっと間違ってる。少なくてもこっち側では実体があるの。だから、単純なアストラルボディじゃないの。まあ、そこがジレンマでもメリットでもあるんだけど」
「今日も、それから俺が生まれた年にもその姿で。母さんにとんでもないことを」
「へえ。おまえ、過去透視なんか出来るんだぁ。知らなかった。親父の方のノロの血かな。でも、今までそんなこと一度もしてなかったよね。この場所の影響で目覚めたのかしら」
そう言いながら、棺桶の縁へふわりと腰掛けた。
「せっかくだからほんのちょっと、親子の語らいを楽しもうか? 」
「質疑応答はもう良いよ」
「だから、語らいだって」
「何でこんなこと」
「実験すんのよ。そのためにこの座標点が強くなる日取りを選んで、新しいマブリもたっぷり喰わせたの、奴らに」
と、上下を交互に指差した。
「ほんのちょっと前まで上も下もウジャウジャいたんだけど、今は引っ込んじゃってほとんど見えないでしょう? これは連中が満足してるってサイン」
「な、何の実験すんだよ・・・・・」
止せば良いのにまた墓穴を掘る問い掛けをしてしまった。人生の阿呆としての性だろうか。神嶺は待ってましたとばかりに緑の瞳を輝かせた。
「こっちで赤ちゃん産んでみて、向こうでも実体を持てるものなのかどうかの実験。
わたしがわたしのタニでもう一度わたしを孕んで産まれ直してみるわけ。
わたしは色々な呪術の修練を積んだから、他人のカラダを丸ごと乗っ取って生き続けることもできるんだけど、それじゃ今の力がなくなっちゃうでしょ? だって、この力はわたしだけが授かった物質の脳味噌の働きなんだもの。
だから、なるべく濃い血で孕もうと思ったの。それで運良く似たような脳味噌を持った赤ん坊が産まれたら、そちらへ意識を移してみるってこと。つまり、その相手がおまえ。
クローン技術も待ってみたけれど、人間を完全に複製できる時代まではちょっと寿命が追いつかなかったわね。せめて、瘤が出始める前に細胞取って冷凍保存しておけばね。
ああ、後ね、おまえのタニだけ使って産むことも試したのよ。でも、それもやっぱりダメだった。そ、人工授精。自分のオナカへ戻しても、他の女のコブクロを使って産まそうとしても必ず途中で流れちゃうの。藤倉も原因が解らないって首捻ってたけど」
「お、俺の精子まで・・・・・」
「苦労したわよ。だっておまえ、せっかくイイ見た目もらってんのに女遊びしないんだもの。それでもまあ、男の子だからね、これまで色々あったでしょう? そういう時にね。うふふふふ」
悪寒が止まらぬまま、結婚するまでに付き合った相手の顔を思い浮かべる。二人? あ、三人? いずれも半年も保たずに別れたが。
リーザ・フェドトブナが言っていたこの神嶺の生き霊は、これまでの我が半生にずっと張り付いていたのか。今日、カフェでその後ろ姿を初めて見るまではまるで気づくことができなかった。呪われた運命というありがちな言葉しか頭に浮かばないが、でもまさにその通り。いよいよ何もかも嫌になってきた。
「あ、それからついでだけどおまえの娘、おまえの子じゃないわよ。おまえが女房に冷たいから他の男と寝たの。
自分でも娘の姿を見て変だって思ってたんでしょ? 顔の造りも似てないし、どっからどう見てもただの日本人じゃない。しっかし、そんな糞女の女房まで一緒にいたくないって逃げ出しちゃうんだから、おまえもよっぽどのもんなのね。
まあ、話を元へ戻して結論を言うと、そのうちにわたしはカラダじゅう瘤まみれになって、動くこともできなくなって、今はこうやって最後の手段を試しているわけ。
これもダメならいよいよ諦めて、こっちの世界だけで生きることにするわ。あっちとこっちを行き来する扉はもうこうして開いてあるから、後はその間口を広げる遊びだけを大人しく愉しむわよ。それはそれでまあ、面白いし」
神嶺薩貴子は着ている服を次々と脱ぎ落としていく。
純白の裸身が目の前に立ちはだかった。
「語らいはこの辺にして、もっと親密な交流に移りましょうか」
「ほとんど判ってて訊くんだけど、その後に俺を殺すの? 」
「孕むまでは生かしとく。その後のマブリは餌に」
この場から逃げることは可能だろうか。でも、その前に逃げる先が何処にもない。せめて、少しでも身を離そうとしたがそれさえも叶わなかった。
砂の中からいつの間にか伸びてきた気味悪くて太い蔓に絡め取られて、両脚共に全く動かせない。思う間もなく脚から引き倒され、両腕と胴体も砂地に固定された。
身体の裏側が火傷するほど熱い。おまけにバケモノみたいな蔓が容赦なく締め付けてくるので、手脚の皮膚が切れて血が噴き出している。
凄まじい熱気も加わって意識が段々、朦朧としてきた。
「こうして改めて見ると、父親よりもっとイイ男よね。あ、わたしの血が入ってるからか。うふふ。おかげでもう濡れてきちゃった」
神嶺は無邪気な顔でそう言いながら、こちらの下半身へふわりと跨がった。
「うふふ。さすがにココはこのまんまじゃ使えないわねえ。どうして欲しいか、ママに言ってみなさい。天国へ連れて行ってあげるから」
父さんと母さんの仇も取れない上にこんな無様で最低な死に方、嫌だ。せめて少しでも時間を引き延ばせないかな。ああ、でも引き延ばしても意味ないか。どっちにしろ最後は殺されるんだし。この女、自分の息子だろうが親だろうが絶対に手加減なんかしないはずだ。だって、人間じゃないんだもん。
とにもかくにも総てが理不尽で、おまけに自分が情けなさ過ぎて涙が止まらなくなってきた。
「最後にこんな良い目を見れるのに悲しいの? 」
「俺は・・・・・」
「何? 」
「あんたも言ってたけど、娘が自分の子じゃないなんてとっくに気づいてたよ。でも、それでも自分が帰る家をなくしたくなかったんだよ。俺が疲れて帰ると女房がお帰りって言って、娘が居間のテレビでドラクエしててさ、それ見るだけで毎日、何となく安心できてたんだよっ。
女房のこと、ホントに好きだったのかって言われたら良く解んないけどさ。っていうか、じつは誰かを好きになるって感覚自体が曖昧で良く解んねえんだけどさ、少なくても二人を幸せにしたいって気持ちはあったんだよ。でも、どういうわけかそういう気持ちが全然、向こうへ伝わらないんだよっ。何とかしようって焦れば焦るほど、どんどん、ますます空回りするだけでっ。
俺の人生、ずっとそうなんだよっ。こういう虚しくて辛い気持ち、オマエなんかに解んねえだろーっ」
七色の螺旋の帯に彩られた美貌が一瞬、きょとんとした表情を浮かべた。
「うん、おまえが能無しの馬鹿だってこと以外は・・・・・あ、だけど、昔のことは思い出したかな。何で思い出したのか、わたしも解らないけど。
子供の頃にわたしが人を連れて行くことができたのはここじゃないのよ。
ニライカナイ。
死んだ奴らが意味の波や粒に還って漂っているだけの退屈な世界なんだけどね、それでも村長の家のオバアは物凄く喜んでた。
何も知らないまま死ぬのは怖いから、その前にニライカナイが見たいっていうから見せてあげたのよ。アンマが男と一緒に島を出てから、代わりに食べる物とかお金とかくれて世話になってたしね。
そうしたらあのオバア、よっぽど嬉しかったのか、そのままあっちへ行っちゃった。
でもその後、村の奴らに殺されそうになってから、あそこへ連れてくことはできなくなっちゃった。まあ、良いんだけどね。この世界の方がずっと面白いから。
ああ、本当に何でこんな話、したのかな。あ、退屈繋がりかぁ。うふふ・・・・・あっ」
神嶺薩貴子は長い睫毛を瞬かせて空を見上げた。
「雨。嘘」
こちらの頬にも冷たい水が当たった。ああ、ここまでの灼熱地獄でも焼け石に水ってわけじゃないんだな。ほんの数滴でも凄く気持ちが良い。
「うわっ、大降りだぁーっ」
ほんの一瞬のうちに見渡す限りの砂漠が雨煙に包まれた。
のし掛かったままの白い肢体越しに有り得ない光景が見えている。雲ひとつない無窮の天蓋から雨と光が同時に降り注いでいた。究極の天気雨だ。
それまで至るところに蔓延っていたバケモノみたいな蔓や枝の大群が急に威勢を失って縮んでいく。植物みたいな外見なのに水を嫌うのか? 倒錯してる。
手脚と胴体の締め付けもだらしなく緩み始めた。非力な人間の力でも無理すればこの蔓の輪を抜くことができそうだ。
神嶺はその頭髪を巡る虹の螺旋をスパークさせながら、鼻先が触れ合うほどに顔を寄せてきた。
「これ、おまえ? 」
「ここ、カラカラに乾いた酷えーとこじゃん。こんなとこで死ぬのは嫌だから、せめて雨でも降らねえかなぁーって心の底で一生懸命に願ったんだよ。そしたら今、すげーリアルな情景が頭に流れ込んできてさぁ、ほら、その通りになっちゃったわ。あははははっ」
「おまえが? 」
「くどいよ。俺があんたの息子なら、俺にも似たような力が遺伝してるかもしれないってことだろう? 今日、どっかの誰かからそんなこと聞かされたし、さっきテメーでも言ってたじゃんっ。
ねえ、この力、そんなにスゲーもんなの? あんたみたいに邪悪な使い方しなかったら、何の役にも立ちそうにないけどさ。あ、でも母さんに嫌がられなくて済んだかもしれないし、女房と娘も出て行かなかったかもしれないよねっ。
俺、母さんに人でなしって言われたんだぜ。悪いことなんか何にもしてないのによっ。むしろ、学校じゃずっと優等生だよっ。なのに死ぬまで一回も誉めてくれたことねぇーんだよっ。それどころか、最後は人でなしだよっ。このどん底の気持ち解るかよっ。テメーと同じだって言われたんだよぉーっ」
神嶺薩貴子は眦が裂けるほど大きく目を見開き、やがて心底から破顔した。
「あ・・・・・あは・・・・・アハハ・・・・・アハハハハッ。ギャハハハハハハッ。凄いぃーっ。スゴいっ、スゴいっ、スゴいっ。おまえ、凄いよ! 凄い子だよ! この世界を好きにいじくれるなんて! ただの能無しのタニじゃなかったんだね! アハハハハハハハーッ」
「ぁぁぁああああああああっ」
遠くから絶叫する影が近づいてきた。丸裸の高村有希子が馬鹿でかい人肌色の剣を振りかざし、神嶺の背後へ迫っている。ヨリによって何故、今、彼女がここにいるのか。
一心不乱に疾走しながら剣の握りを下向きに変えている。何だかその道の手練れという感じ。物凄い気迫だ。
考えるより早く蔓の拘束を逃れ、胸に置かれた神嶺の両手を掴んだ。曲げた両脚を力の限り交差させて繋がったままの腰も押さえ込む。
これも雨の効果なのか、神嶺自身も臂力を失っている。力なく藻掻くのが精一杯。思うように振り返れないと判ると、代わりに尻を振り乱して半身を仰け反らせた。ここまでかと思うほどに白い首を折り曲げて、遙か彼方を逆さに見渡そうとする。
ばっさりと垂れ下がった黒髪の房を掴み、暴れる肢体を無理矢理にこちらへ引き戻す。鋭く伸びた爪先で首筋と肩肉を滅茶苦茶に抉られた。
「いぃっ、痛っ。いっでえええぇっ。」
気迫に満ちた叫びがさらに迫ってきた。
「ああああーっ」
「刺せっ。早く刺せぇーっ」
神嶺は花緑青色の瞳を嫋やかに細めた。
「産みの母を殺すんだ? 人でなし」
「ぶっ殺せえええぇーっ」
「あああーっ、ああああああーっ、やああっ」
─ズンッ。
下腹に凄まじい衝撃を受けた。騎乗の四肢の動きが止まり、身体が重なった箇所へそろそろと目を遣る。真上から突き落とされた剣先が純白の乳房を貫通し、こちらの腹奥まで達しているのが見えた。
「・・・・・何で、俺まで刺すんだよぉ」
「ご、ごめんなさい・・・・・」
刃に貫かれた裸身が斜めに伸び上がった。いつまでも尾を曳く咆吼と共に四方八方へ閃光を放つ。
「んぎゃあああああああぁぁあああああああぁぁぁああああああああああああああぁ!」
総てを飲み込む爆発の中で意識を完全に失うまでの刹那、ふたつの景色が同時に垣間見えた。
破裂して散り散りになった肉の破片は虹色に輝く螺旋の光帯に変じて次々と虚空へ舞い上がり、水と光を帯びた爆風に吹き飛ばされた高村有希子は、その五体の形を辛うじて保ったまま、朝焼けの深奥に溶けて消えた。
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