第15話
「はぁぁ……一体俺はどうすれば…」
学校から帰ってきた夜。シャワーを浴びながら俺は頭を抱えていた。原因は今日の放課後に起こった大事件だ。
『文化祭当日!私と一緒に過ごしませんか!』
ただでさえ速水先輩から文化祭デートに誘われ、その直後にたまたま通りかかったらしい尾白先輩にもそれとなく誘われた。からの不知火さんの公開お誘い。周囲の目が一斉にこちらに向き、俺はこの状況をなんとか切り抜けようと尾白先輩に目配せで助けを求めた。しかし尾白先輩の答えは予想してないものだった。
『……良いんじゃない?ふたりっきりの文化祭巡り!記憶に残るよ~!青春だよ~!』
『ですよね!ね!』
『え、いや………声が大きいですって…!』
尾白先輩はわざとらしく声を張り上げ、まるで俺と不知火さんの文化祭デートが決まったかのように言いふらした。そのせいで俺は強くは断れず、一旦保留という形で今こうしてシャワーを頭に当てて悩んでいるのだった。
尾白先輩ならもう少し気を利かせてくれるかと思っていたのに完全に逃げ道を塞がれてしまった。
でも別に不知火さんと文化祭を回りたくない訳じゃない。絶対楽しい。だけど……
『それだけ本気ってこと』
「本気……かぁ…」
直後に大事件が起こったせいであの時は深くは考えられなかったが、本気ってことは……本気ってことなんだろう。つまり俺に好意がある。性的な意味とかじゃなくて本気で好きってこと…………
「あ゛ぁぁぁぁ……」
考えれば考えるほど頭と胸が痛くなってくる。直接は言われてないにしろ、そんな言葉を使われたことなんて初めてだ。今日まで速水先輩のことなんてセクハラ先輩としか思えてなかったのに急に魅力的に見えてきた。自分がチョロすぎて怖い。
そうだ。文化祭は2日間あるんだ。それぞれで別々にデートするっていうのもありなんじゃ……
『え………2人別々って……浮気じゃないですか。最低ですね佐川くん』
『私の本気ってそんな軽いと思われてたんだ。ごめんね軽い女で』
なんか駄目な気がする………不知火さんはほとんど妄想だが確実に速水先輩は言ってくる。だって本気ってことは本気ってことだろ!なら多分断った方がマシだ!
「おーい幸太郎ー?ちょっと長くないかー?」
「ごめーんもう出るから!」
かれこれ30分近くもシャワーを浴びっぱなしだったせいで父親から心配して声をかけられてしまった。俺はすぐに返事をし、とりあえず風呂から出ることにした。ちなみにだがうちは父子家庭だ。母親の浮気が原因で別れ、今は男手1つで育ててくれている。
どこか女の部屋みたいな自室に戻り、ベッドにダイブした。何気なくスマホを見ると不知火さんのおかげで始めたSNSに通知が来ており、確認してみるとその不知火さんからのDMだった。
【文化祭当日は任せてください!絶対思い出に残してみせます!佐川くんも準備頑張ってください!】
「…………良い人だよなぁ」
文面からですら伝わってくる良い人感。俺を文化祭に誘ってくれたのも他に男子がいないから友達としてなのだろうか。
「……ん?suzuka……?」
俺が不知火さんにどう返したものかと悩んでいると、聞き覚えのない名前からフォローリクエストが届いていた。プロフィールの画像も鮫のぬいぐるみで、誰かは分からない。紹介文も何も書いてない。まぁ恐らくは生徒の誰かだろう。今までも何人かに見つかったし、そのうちの1人だ。
そう考えて適当に承認をした瞬間、そのアカウントからとんでもない速さでDMがやってきた。一応見るだけ見るかと思って開くと、そこにはとんでもない画像と、一言だけ添えられていた。
【続き見たいなら、分かるよね?】
「ブフッ……!!」
画像には女性の上半身だけが写っており、器用に指で顔を隠してあるが髪の色や長さ、そして黒色の下着に支えられている胸には見覚えしかなかった。
「この人はホントにっ……!」
そういえばそうだ。速水先輩の下の名前は涼香だった。いや今はそんなことどうでもいい。まずは送られてきた画像を本能で保存する前にすぐに消し、速水先輩に返事を送った。
【何してるんですか】
そう送るとすぐに通話がかかってきて、俺は急いで通話に出ることにした。
『やっほー。興奮した?』
「してません。というか良くないですよこんなことしちゃ」
『……怒られちゃった』
通話越しの速水先輩はいつもと雰囲気が違うようにも感じた。焦ってるというか……テンパってる?そんな声色な気がする。
「当たり前です。また送ってくるようならブロックしますよ」
『ごめんってばぁ……とかいいつつ?保存したんでしょ?』
「すぐに消しました」
『ぇ………なんで?』
「なんでって…トラブルの元になるからに決まってるじゃないですか」
『……………あ、そぅ』
実際若気の至りで送った画像が悪用されたり友人の間で回されたりなんて話を高校の時に聞いたことがある。男女が逆だろうがそんなの関係ない。トラブルになってからでは遅いのだ。
「とにかく!ダメですから!」
『うん……ごめん。分かった』
速水先輩は珍しく落ち込んでいるような声色で悲壮感が通話越しに漂ってきていた。普段はあんなテンションなのに調子が狂う。仕方ない……
「………正直、えっちでした」
『……え?今なんて???』
「何も言ってません。切りますからね。良いですか」
『もっかい!もっかいお願い!私の体そんなに良かったの!?』
「聞こえてるじゃないですか!」
写真の感想を伝えるとあっという間に元気になり、いつも通りの先輩に戻ってくれた。のは良いがいつも以上にテンションが上がってしまった先輩から逃れるように俺は通話を切り、文化祭の話をしそびれたことを色んな意味で冷静になった後で思い出したのだった。
―――――――
『………正直、えっちでした』
「ホント……ムッツリ幸太郎め…」
クラスの皆が幸太郎くんのSNSを見つけたとか話してるのを聞いて私も始めて探してみた。そしてアカウントを見つけた後で小一時間悩みに悩み、上着を脱いだ写真を送りつけてやろうと考えた。男子に送るなんて良くない事をしてるのは分かってたけど不知火ちゃんに勝つにはここを攻めるしかないって焦ってた。
そしたらまさか感情論じゃなくて正論で怒られるなんて……女の下着くらいなんともないのに。幸太郎くんだって日常的に見てるくせに。てか私だって緊張したし。それに幸太郎くん以外にするつもりなんてないからトラブルなんて起こんないよ。
それで……真面目な答えだなって……流石にキモかったなぁって…思ってたのに………なーんか最後の最後にちゃんとムッツリなんだもんなぁ…
「ほんとっ………女を勘違いさせるのが上手なんだからっ…………んっ……ぁ…」
お気に入りの鮫のぬいぐるみに体を擦り付ける。誰かさんのせいで頻度が増えてて困ってる。まぁ皆一緒だろうけど。
「えっちかぁ………今頃思い出してしてるのかなぁっ…………あ、……それ考えると……ちょっと、ヤバっ………」
彼の優しさに甘えているだけなのは分かってる。私がそれに付け込んでいることも。だから今回だけでいい。今回の文化祭の思い出さえくれればこんな最低な女は諦めて応援してあげるから。
「諦めきれるかなぁっ…………んっ…」
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