第11話
不知火さんの家で勉強会をした翌日の放課後、俺は1人で家に帰っていた。
というのも本来の予定なら不知火さんと勉強会するはずだったのだがどうにも都合が合わなくなったらしく中止ということになってしまった。なので今日は大人しく1人で勉強するために家に帰っている途中なのだ。
そんな帰り道にて横断歩道で信号が青に変わるのを待っていると突然後ろから声をかけられた。
「お疲れ様。どう?テスト勉強捗ってる?」
「あ、尾白先輩。お疲れ様です。良い感じに捗ってます」
声をかけてきたのはテニス部の尾白先輩だった。尾白先輩は俺の返答に「捗ってるんだ。残念」と呟き、俺の左隣に立って一緒に信号を待ち始めた。
「苦戦してるなら私が教えてあげても良かったのになー」
「それは嬉しいですけど、先輩の勉強の邪魔するのは……」
「あれ?私を誰だと思ってるのかな?去年までガリ勉眼鏡だった女だよ?中間テストなんて余裕余裕!」
「あぁそういえば……って自分でガリ勉とか言うんですね」
「バレたなら開き直らないと!カッコ悪いじゃん?というわけでどう?今日だけでも勉強見てあげるけど」
願ってもない提案ではある。それなりの成績は俺も欲しいし、尾白先輩も何か企むようなタイプではないはずだ。ここはお言葉に甘えるとしよう。
「分かりました。じゃあ、お願いします」
「まっかせといて!」
ということで尾白先輩と共にそのまま近くの図書館へと向かい、そこでテスト勉強をすることになった。
尾白先輩は自分で言うだけあって本当に分からない所があれば何でも教えてくれた。しかも丁寧で分かりやすい。おかげでテスト勉強は大いに捗り、本番に向けての自信もつけることが出来た。
勉強会は特に何事もなく終了し、俺達は図書館を後にした。その帰り道、尾白先輩がコンビニに寄りたいということでふたりで寄ることにした。
「佐川くーん。なんかいる?奢ったげるよ」
「ありがとうございます。でも自分で買うから大丈夫です」
「いいから奢らせてよ。先輩なんだから」
「………じゃあ水を」
「欲がないなぁ。特別にアイスもつけてあげよう!」
いくら先輩とはいえ女子に奢ってもらうのは少し気が引けるが、この世界の常識的にも仕方がないことなので諦めるしかない。ちゃんと感謝するとしよう。
「ほい。溶けるからここで食べちゃお」
「ありがとうございます」
買い物を終え、コンビニの前でふたり並んで休憩することにした。俺は棒アイスを渡され、尾白先輩はからあげ棒を袋から取り出して美味しそうに食べ始めた。正直からあげ棒の方が良かったとは思いつつも、買ってもらったアイスをありがたく食べることにした。
すると尾白先輩がからあげを頬張りながら俺に話しかけてきた。
「………で、どう?今のところは」
「どう……?」
「高校生活。男子1人で寂しくないのかなぁって」
「寂しくないといえば嘘になりますけど…楽しい方です」
俺も最初は居心地が悪いだろうとは思っていたがクラスの女子達が想像より男子っぽいからあまり苦ではない。むしろ電車とかで見かける男子が女子のような会話をしている。話が合う気はしない。
「そっかそっか。なら良かった」
俺の返答を聞いた尾白先輩は満足そうに頷き、残りのからあげを一気に食べ終えた。俺がそれに合わせてアイスを食べようと急ごうとすると「ゆっくりでいいよ」と止められ、今度は別の話題になった。
「楽しいってことは~…好きな女子とかいるのかなぁ?」
「………いません」
「もったいないなぁ。あれ、というかあのサッカー部の子とはそういうんじゃいんだ?」
サッカー部の子というのは恐らく不知火さんだろう。でもアレは不知火さんが俺に優しくしてくれてるだけであってそんな関係ではない。端から見ればそういう関係に見えるのだろうか。とりあえず不知火さんの為にもしっかり否定しておかなくては。
「違いますよ。ただの友達です」
「なるほど友達かぁ。じゃあ彼女とかは?佐川くんカッコいいしモテモテだったんじゃない?」
「いたこと……ないですけど………」
前世含めて彼女なんて居たことない。だが尾白先輩からお世辞でもカッコいいと褒められて不思議と嬉しくなってしまう。思わずニヤけてしまって情けない顔を隠すようにそっぽを向いた。そんな俺の反応が面白かったのか尾白先輩は追撃してきた。
「あれ?もしかして照れてる?」
「………照れてないですけど」
「照れてるじゃん。佐川くんはカッコいいよ。めっちゃカッコいい。超イケメン」
「ぃやっ……ちょっ…お世辞は良いですから…………ホントに……」
「お世辞じゃないってば。優しいしカッコいいし。実はモテてたんじゃない?」
おだてられてるだけなのは分かってるが嬉しいものは嬉しい。言われ慣れてない言葉すぎて勝手に喜んでしまい、顔はどんどん熱くなっていく。
「………ふふっ。アイス溶けてるよ?」
「ぇ………あ、ヤバっ…!」
あまりの恥ずかしさでアイスを食べていたことを忘れ、尾白先輩に言われて溶け始めていたことに気づいた。俺が急いでアイスの残りを食べていると、尾白先輩は楽しそうに微笑みながらその様子を眺めていた。
「……ありがとうございました」
「はい。どういたしまして」
アイスを食べ終え、改めて尾白先輩に頭を下げた。そしてコンビニを後にして駅へと向かうことにしたのだが、俺はさっき褒められまくったせいでまともに尾白先輩の顔が見れなくなってしまい、なんともいえないソワソワを胸に抱えたまま帰ることになったのだった。
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