第7話

 今日の部活は室内。そして濡れてもいい服装で来いとお願いされてしまった。というわけで下は学校指定の水着に上は体操服という格好に着替えて訪れたのは室内プール。つまり水泳部だ。


「今日はよろしくお願いします」


「「「「お願いしまーす!!!」」」」


 顧問の先生に紹介され、部員に挨拶をする。水泳部は今まで訪れてきた部活の中では普通で、元気な挨拶を返してくれた。

 だが今回ばかりは俺の方が普通ではいられない。なにしろ全員水着なのだ。もちろんスク水なんかじゃなくて大半はしっかりとした競泳水着なのだが、それでも目が泳いでしまう。体のラインが浮きだっていて、室内だというのに健康的な太ももが眩しく輝いている。


「それじゃあ……速水。任せていいか?」


「はい。もちろん」


 顧問の先生は部員の1人を指名すると、生徒会で見かけた背の高い茶色のショートボブ女子が俺の前にやってきた。


「よろしくね幸太郎くん」


「……よろしくお願いします」


 そんなこんなで速水と呼ばれた女子に仕事を教わることになり、部活動が始まったのは良いのだが……


「いーち、にー、さーん、しー」


「…………」チラッ


 今までの部活でも感じていたことではあるが、水泳部は格好も相まって役得感が凄い。ストレッチをしている風景だけでも目の保養になる。仕事自体は雑用や声出しがメインなようで、暑くもなく寒くもない室内プールは絶好のマネージャースポットだ。


 だが1つ気になる点が無いこともない。それは他の部員達からの視線だ。やけにジロジロ見られている気がする。男だからというのもあるのだろうがそれにしても見られている。隣で仕事を教えてくれている速水先輩に聞いてみるとしよう。


「速水先輩、俺って何かしましたか?すごく視線を感じるような……」


「ん?あー……そりゃだってさ、幸太郎くんがそんな下着同然みたいな格好してるんだもん。思春期の女子は見ちゃうって」


「え?下着?」


 思ってもみなかった返答を受け、俺は自分の格好を確認してみることにした。上は体操服だから良いとして、まさか海パンに邪な気持ちを向けているという意味なのだろうか。いくらなんでもそんな馬鹿な……


「ジーッ……………はっ!?」


「……どうも」


「き、気にしないでマネージャー!!見てないから!!!」


 部員の中でもひときわ熱い視線を向けていた女子の方を見てみると、その女子は急に慌て始めて誤魔化すようにストレッチを再開した。他の部員からも何やら小声で注意されており、その一部始終を隣で見ていた速水先輩が「ほらね?」と俺の肩を肘で小突いた。


 今の状況を前世の感覚で例えるなら女子マネージャーがスク水の上から体操服を着ているみたいなことか。確かに少し趣がある。まぁ俺も部員達の水着姿を堪能しているわけだからWin-Winの関係ってやつだ。


「……やっぱりね」


「やっぱり?」


「んーん?なんでもないよ?」


 女子からの視線の意味に気づき「仕方ないか」と考えていると、速水先輩が意味深な台詞を呟いたかと思えば明らかに誤魔化している態度をとった。だが俺の聞き間違いということもあるのでその場は一旦流し、マネージャー業務へと集中することにしたのだった。




「よし、練習はここまで。各自ストレッチ忘れんなよー」


 顧問の先生の合図で部活動が終わる。俺は部員にタオルやドリンクを配った後、俺しか利用する人間が居ない男子更衣室へと着替えに戻ったのだった。


「眼福だったなぁ……」


 1人で使うにはかなり広い更衣室の椅子に座って制服に着替える前に今日の事を振り返る。女子高生の水着姿をマジマジと見ていても許される最高の部活だ。仕事もあまり複雑でもなかったし、これで学費免除はお得すぎる。


 ガチャリ


「………え?」


 俺が呑気な事を考えながら制服に着替えようとしたその瞬間。更衣室の扉が開き、水着姿の速水先輩が中へと入ってきた。


「え、あっ…ここ男子更衣室ですよ!?」


 あまりに唐突な登場にしどろもどろになりつつも速水先輩に言葉をかけた。だが速水先輩は無言のまま更衣室に内側から鍵をかけると、獲物を前にした獣のような視線で俺を睨み付けてきた。


「駄目だよ鍵はかけなきゃ」


「それは……すいません…」


「もしかしてわざとかけてなかったとか?」


「違います!本当に忘れてただけで…っ!?」

 バンッ!!


 椅子から立ち上がり、無用心だったことを謝る。しかし速水先輩が止まることはなく、その勢いのままロッカーに押し付けられるように右手で壁ドンをされた。


「……幸太郎くんってさ、変態だよね?」


「変態!?いやいやいやそんなっ……」


 速水先輩からの質問に必死に首を横に振る。まさか女子の体を見すぎて怒っているのだろうか。何はともあれここは全力で誤魔化すしか……


「変態じゃなかったら普通女子校に通おうなんて考えないよ。ずっと怪しいとは思ってたけど今日で確信したんだ」


「確信って……俺は何も………」


「じゃあこれなに?」


 どこか怒っているようにも取れる声色で速水先輩は俺の体操服の襟をつまんで軽く引っ張った。一体何の意味があるのかと呆然としていると、速水先輩は大きくため息をついた。


「ねえ。なんで下に肌着とか着てないの?」


「肌着……?」


「…………うわマジか。え、なにどこまで人を煽れば気が済むわけ」


「煽ってなんか…………」


「あー…無理マジ無理もう少し可愛がってやろうと思ってたけど我慢できないわ」


「さっきから何を……うぉっ!?」バァンッ!!


 逃がさないと言わんばかりに空いていた方の左手でも壁ドンをされる。そしてさらに体を近づけてきて、段々と鼻息も荒くなっていき、捕食者のようなギラついた目で語りかけてきた。



「ねえ幸太郎くん。悪いことは言わないからさ、私の男になりなよ」


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