第6話

 今日は外ではなく、体育館にやってきている。体育館でやる部活といえば……


「ようこそバスケ部へ!!!」


「え、マジカッコいい!!連絡先交換しよ!今度の休みに遊び行こ!カラオケ行こ!」


「彼女は?いんの?まだ?私もフリーなんだよね。どう?」


「あ、あはは……よろしくお願いします…」


 陽キャ集団バスケ部である。覚悟はしていたが凄まじい圧だ。自然とボディタッチをしてくるし制汗剤の匂いが鼻にくる。あとデカイ。身長もだが色々とデカイ。今から俺は食べられるんじゃないかとすら錯覚してしまう。


「おい!!!何してんの!!!」


「うわはやぁ……」


 俺が巨人に囲まれていると、体育館に怒鳴り声が響き渡り、一言で巨人達を静かにさせたのだった。


「マネージャーに迷惑をかけるな!忙しいのに来て貰ってるんだから!分かったら各自アップを始めること!」


「「「はーい……」」」


 指示された部員達は俺の周りから離れ、渋々といった顔で準備運動を始めた。ようやく解放された俺の元へと怒鳴っていた女子生徒が申し訳なさそうな顔をしながらやってきた。


「部員が悪いことしちゃったね」


「いえいえ。全然気にしてませんから」


 頭を下げられてしまい、俺は本心からそう返した。美人に囲まれてボディタッチもされて正直ちょっと嬉しかった。

 そんな俺の返しがおかしかったのか、女子生徒は固い表情を崩して笑ってくれた。


「なるほど。優しいってのは噂通りみたいね」


「ありがとうございます……」


「あー!キャプテンが抜け駆けしてるー!」


「ズルー!!!」


「ぬっ…抜け駆けじゃない!監督から代わりに教えてって頼まれただけ!」


 準備運動をしている部員達から茶化され、顔を赤らめながらも反論する。険悪な雰囲気かと思ったがどうやら関係は良好なようだ。

 キャプテンと呼ばれた彼女は気まずそうに俺の目を見て話を再開した。


「私は青木…青木あおき彩良さら。3年生でバスケ部キャプテン。よろしく佐川マネージャー」


「よろしくお願いします」


 自然と差し出された握手に応じ、頭を下げた。青木先輩は身長は俺と変わらないくらいで、髪はかなり短くしてある。周りの部員がなかなか派手めな色なのに対して真剣なのだろうという印象を受ける。胸は……動きやすそうだ。


 こうしてその後は青木先輩に教えられる形で仕事を覚えていった。バスケ部で教わったのは謎の機械の操作だった。タイマーやらカウントやらを管理している優れものらしいのだが、ボタンが多すぎて覚えられる気がしない。俺は四苦八苦しながらメモを取りながらマネージャーとしての業務をこなせるようにと頑張った。



「終わったぁ……!!」


「マネージャー!はいこれあげる!」


「おっと……どうも」


 最後に行った試合形式の練習が終わり、部員達が着ていたゼッケンを次々に手渡される。汗でびっしょりと濡れて重くなっていて、仄かに暖かみを感じる。…………ちょっとエロい。


「佐川。それカゴに積めたら着いてきて。洗うとこ教えるから」


「あ、はい!」


 自分でもキモいことしてるなとは思いつつ堪能していると、青木先輩から声をかけられて俺は急いでその後を追って外の手洗い場へと向かうのだった。



「ここで洗って……適当に絞って………後は干す。ね?簡単でしょ?」


「なるほど。ありがとうございます」


 青木先輩と隣り合ってゼッケンを洗う。キャプテンということもあり一番声を出して一番走り回っていたのに今もこうして俺に仕事を教えてくれている。ものすごく良い人だ。落ち着いていて騒がしいバスケ部の中では話しやすくて助かる。


「ね、マネージャーって大変?」


「えぇまぁ。でも楽しいです」


 先輩の問いにそう返す。実際忙しいが目の保養になることも多くて助かる。そんな俺の答えに先輩は笑顔を見せると、ちょっとだけ俺の方へと近寄ってきた。


「そう。楽しいならよかったね」


「はい。それもこれも皆さんが助けてくれるおかげです」


「………そういえば始まる前は部員達がごめんね?悪い奴らじゃ………ないからさ?」


「大丈夫です。もう慣れました」


「それもそうだよね」


 青木先輩と話していて俺はものすごく青春を感じていた。俺がしてこなかった部活というのはこんなにも青春が詰まっていたのかと悦に浸っていると、いつの間にか青木先輩が肩が触れ合うくらいにすぐ隣までやってきていた。


「……先輩?」


「……ん?ど、どうした?」


 さも当たり前みたいな顔でゼッケンを洗い続けているが、明らかに体勢が不自然だ。蛇口に対してすごく斜めになっている。それに前屈みで洗っているせいで練習着の胸元がお留守になり、視線が吸い込まれる。


 もうちょっと…………もうちょっとで……



「キャプテーーン!監督呼んでまーす!」


「っ!?あ、今行くから!!!」


 あと一歩のところでチラリズムは回避され、俺の密かな野望は打ち砕かれてしまった。バカみたいなことを考えていた罰なのだろうと反省して項垂れながら洗濯を続けたのだった。



 ――――――


 大胆なことしちゃったなぁ…………


 でも見てたよね…………あれ絶対見てたよね……


 下着見られたかなぁ………変態だって思われたかなぁ……


 うぅ………そうだとしたらキャプテンとしての威厳がぁ…



「おい彩良。聞いてるのか?」


「はい!?聞いてます!」


 監督に怒られ、私は雑念を振り払うように大きな返事をした。そのまま監督と夏の大会について話をしつつも、私の頭の中はさっきの行動でいっぱいだったのだった。




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