第3話
「佐川くん!お昼を一緒に食べませんか!」
入学してから数日後、昼休みに不知火さんが俺の元へとやってきてお昼ごはんの誘いをしてきた。不知火さんは隙あらば俺に声をかけてきてくれる。俺に気を遣ってくれているのか、はたまたマネージャーになって欲しいのかは分からないが、こんな可愛い女子に話しかけられるのも悪くない。
「…分かった。じゃあ――」
ピンポンパンポーン…
俺が不知火さんの誘いに乗ろうとすると、突然校内放送の合図が流れた。お昼のラジオ的なやつなのだろうかと耳を傾けると、スピーカーから流れてきたのは信じたくない放送だった。
『あー……1年の佐川幸太郎くん。至急生徒会室にくるように。繰り返す。佐川幸太郎くん。なるべく早く生徒会室に行きなさい』
その放送が終わった瞬間クラスメイトの視線が一気に俺に集まった。横にいた不知火さんも大きな目を丸くして驚いていた。
「…………佐川くん何したの?」
「何もしてないんだけど……」
俺は弁当を取り出すのを止め、渋々生徒会室へと向かうことになるのだった。
「失礼します……」
「…………っ……いらっしゃい」
緊張しながらも豪勢な生徒会室に入る。すると部屋の奥にある椅子に座っている黒髪ロングの生徒が厳格な雰囲気を醸し出しながらも迎えてくれた。
「あの、なんで俺は呼ばれたんでしょうか?」
「……じ、実はですね…………あの……君に…お願いしたいことがあって……」
しかし、いざ話し始めてみるとその生徒は俺と目を合わせることなく、視線をあちらこちらに散らしながらどもっていた。一向に話が進まないことに若干の苛立ちすら覚えていると、俺が入ってきた扉が開いて別の生徒が入ってきた。
「もー……任せてくださいって言ったのは会長じゃないですか……」
「ゥッ……だって
入ってきた生徒は俺よりも背が高く180はあるだろう。座っている生徒に比べれば髪は短く体格も良い。そんな速水と呼ばれた生徒は俺の後ろに立つと、抱きつくようして柔らかいモノを背中に押し当ててきた。
「ちょっ……!?当たって……!」
「当ててるんだよ。幸太郎くん」
速水さんは俺に抱きついたまま、赤面して半泣きになっている会長と呼ばれた生徒の代わりに話を進めてくれた。
「君をここに呼んだ理由はね。部活動のことさ。君も実感したとは思うけどどこの部活もマネージャーが欲しいんだ。それで私達生徒会に頼んでくる生徒も出てくる始末……だから君に頼みたいことがある。ですよね?会長?」
「そ、そそそそう!佐川くんには!…………えっと……そのぉ……」
威勢良く大声を出したかと思えばすぐに萎んでしまった会長さん。そんな会長さんを見て「はぁ」と速水さんがため息をついて俺の頭を撫で始めた。
「どうか情けない会長を許して欲しい。あの人は小中女子校だったから男子に免疫がないのさ。だから今こうして君と同じ空間にいるだけで恥ずかしいってわけ」
「仕方ないでしょぉ…………もぉ……」
「な、なるほど………」
あまりの恥ずかしさからかついに机に突っ伏してしまった会長さん。それを見た速水さんはまたしても大きなため息をついて話を再開した。
「そろそろ本題に入るよ。簡単に言えば君には全ての部活動のマネージャーになって欲しいんだ」
「全て!?」
マネージャーをしろという話なのはなんとなく予想していたが、まさか全ての部活とは思わずに驚愕のあまり聞き返してしまった。
「あぁそうさ。もちろん1日で全ての部を回れというわけではない。その日ごとにマネージャーをする部活を変えてもらう予定。どう?」
正直に言えばものすごく嫌だ。美人に囲まれるとはいえ体育会系のノリに振り回されるのは目に見えている。それに絶対に大変だ。ここは丁重にお断りして…………
「大変なのは分かるよ。だからこの話を受けてくれたら君を特待生として扱ってもいいと許可を取ってある」
「特…待生…………」
「おや?分からないかい?つまり学費は全額免除。その上で女の子に囲まれて部活に精を出せる……これ以上ない提案だと思うんだけど」
「なる……ほど…………」
やばい急にメリットの方が大きくなった。でもめんどくさいのは確定してるんだ。落ち着け俺。美人揃いでも相手は陽キャ軍団。会話も出来ずにコキ使われるのがオチだ。
「…………仕方ない。ほらそこの子犬ちゃん。入ってきても良いよ」
「……バレてましたか」
いきなり速水さんが扉の方に声をかけたかと思えば、その扉を開けて不知火さんが登場した。
「ほら。幸太郎くんに言いたいことあるんじゃないの?」
「……っ佐川くん!!!」
「は、はい!」
不知火さんは大きな声で俺の名前を呼び、腰を90度に曲げて頭を勢い良く下げた。
「お願いします!!!マネージャーになってください!!!この通り!!!」
「……だってよ幸太郎くん?」
不知火さんの懇願に合わせて速水さんも胸を強く押し付けてくる。あまりに真剣な願いと甘美な誘惑が合わさり、俺の頭は混沌を極めた。
そして……
「…………分かりました」
「っ!!!!やったぁ!!!!」
俺は全ての部活動に共有される男子マネージャーとして振り回される日々を過ごすことを選んだのだった。
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