第2話
入学式の少し前、家の階段で転んだ拍子に前世の記憶を思い出し、この世界が元いた世界とは違うことに気づいた。最初は戸惑いこそあれど正直ワクワクもしていた。この世界なら俺もモテモテになれるんじゃないかと。
だけど現実はそんなに甘くはなかったのだ。
まずは入学式当日。周囲からの視線がとんでもなく痛かった。理由は単純。どれだけ周りを見渡しても男子生徒が俺しかいないからだ。冷静に考えれば当たり前だが、いくら共学になると言っても元女子校に入ろうなんてバカが居るわけない。前世で例えるなら男子校に女子が入学するようなものだ。明らかにそういうこと狙ってる奴にしか見えない。
俺が通うことになった
そんな入学式に耐え、お次はホームルーム。教室では窓際の一番後ろの席ではあったが、そのせいでチラチラと見られているのが余計に分かってしまう。
そんなホームルームを終え、今日のところは帰るだけとなった。急いで荷物を片付けて教室から逃げようとするとブロンド髪の女子が俺の行く手を阻んできた。
「はじめまして!」
「は……はじめまして…」
「私は
「ど、どうも………っ!?」
やけにテンションの高い女子の不知火さんは、急に俺の手を両手で握ってきて顔を近づけてきた。
「部活は何にするかとか決めてますか?もし決めてないならサッカー部にしましょう!一緒に見学に行きましょう!」
サッカーなんてしたことがないし、知識もテレビで見てたくらいでほとんどない。そもそも運動部なんて前世でも今世でも入ったことない。ここはちゃんと断って帰宅部に…………
「ここのサッカー部はスゴいんですよ!ね!」
断って………
「一緒に全国目指しましょう!」
帰宅部に…………
「お願いします!!!」
「…………見学だけなら」
「っ!!ありがとうございます!!」
あまりの圧と不知火さんの近づいてくるかわいい顔に耐えられなかった俺はとりあえず見学だけならと約束することになったのだった。
「不知火星奈です!見学させてもらいにきました!」
「えっと……佐川幸太郎です。同じく見学にきました」
グラウンドについた俺達は練習前のサッカー部に挨拶をしていた。部員達は俺を見て大はしゃぎしており、矢継ぎ早に質問を投げ掛けてきた。
「君が噂の男子なんだね!」
「どこ中?彼女とかいる?」
「マネージャーの経験とかあるの??」
「えー……あはは………」
挨拶をしただけなのにこの盛り上がり様。こんな世界でこれから生きていかなくてはならないと思うと気が遠くなってくる。
というかずっと思ってたが……揃いも揃って顔が良い。入学式でもここにくる途中でも思っていたが美人しかいない。言っちゃ悪いがそれが唯一の救いだ。
「あれ?なんか盛り上がってると思ったら…」
サッカー部から質問攻めにあっていると、後方から1人の女子が近づいてきた。
「相変わらずだなぁサッカー部は。ほら男子が怖がってるじゃん」
自然な流れで肩に手を置かれ、その女子は俺を庇うような形でサッカー部の前に立った。背中にはテニスのラケット入れを抱え、身長も俺と変わらないくらい。茶髪のポニーテールで声も少し大人びている。
その女子は俺の方をチラリと振り向くと、優しく囁いてきた。
「こんな怖いとこよりもさ、うちに来ない?きっと楽しいよ?」
「ちょ……佐川くんは私が最初に誘ったんです!絶対にダメです!」
「最初とか関係ないよ。君がやりたいことをやるのが一番なんだから」
「ぐぬぬ………佐川くん!サッカー部がいいですよね!」
「いや俺は…………」
初日からまさかの形で修羅場が発生してしまう。こんな美人に取り合いされるのは悪い気分ではないがそもそも部活に入る気なんて……
「ちょっと待ったー!!」
また増えたよ…………
「そういうことなら野球部に来な!甲子園に連れてってやるからさ!」
今度は野球部のグラウンドの方から黒髪短髪でガタイが良い生徒が走ってきた。これまた美人だが、一番苦手なタイプなのはすぐに理解した。
そんな俺の心境を知ってか知らずか、テニス部の生徒が野球部の生徒と口論を始めた。
「またそうやって……強引なのは良くないってば。この子が決めた部活じゃないと」
「だったら見学から始めよう!テニスなんかよりも楽しいぜ!」
「あの!私が最初に誘ったんですよ!取らないでください!」
次から次へと修羅場が加速していく。結局その場で話し合いが解決することはなく、サッカー部の顧問の先生が来て全員が怒られるまで続いたのだった。
―――――――
「あら……」
「どうしました会長?」
廊下を歩く2人の生徒。その片方がグラウンドの方から響いてくる声に気付き、三階の窓からから様子を見始めた。
「あんなに集まって何をしているのでしょうね」
「どれどれ………あー…多分アレじゃないですか?例の男子を取り合ってるとか?ほら結局共学になったのに1人しか居ないってどこも騒いでましたから」
「そういうことですか……これだから運動部は……」
「…………でも私は気持ちは分かりますけどね。水泳部だし。やっぱり男のマネージャーは欲しいですよ」
「……これでは部活動に支障をきたします。早急に手を打たなくてはいけなさそうですね」
ふたりはグラウンドを眺めるのを止め、自分達の拠点である生徒会室へと足早に戻っていくのだった。
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