第20話

20 カミングアウト



「明けましておめでとう~!今年もよろしくね♪」

「ユミコさん!おめでとうございます!こちらこそ宜しくお願いします!」

「ん~?寝不足?グータラな生活してたなぁ~!クマがあるぞぉ!」


ぷに~っと私のほっぺをつまんで、笑うユミコさん。相変わらず女神のような笑顔。


「ちがいまふ。昨日だけ、ねむれなくへ。」

「いや~、久々にみのちゃん見たら、いじりたくなるわぁ♪」

「きましたよ。もっと、いじりたくなる奴が。」


「おはようございます!おめでとうございます!あ、課長!これはですね!ボクの地元の銘菓です!お茶請けにどうぞ!いやいや、日本一の銘菓を自負していましてね?お土産ランキング的なものには、必ず上位にランクインしちゃうんですよねぇ?はっはっは!」



佐々木は一人一人に、お菓子を配り始める。うすいクッキー生地に、分厚いホワイトチョコがおいしいお菓子。


私も大好きだ。



「おはようございます!おめでとうございます!これはこれは、ユミコさんに、みのりさんではないですか!ではお二人にもね、これあげますから。あげちゃいますから。今日も一日頑張りましょう!」


朝から、うざい位にテンションが高い。


「おはよ!佐々木!年が明けても元気ね~!」

「元気さとトーク力で勝負してますから!」

「誰と勝負してんだよ。」

「みのりさん、あなたね。年明け一番に彼氏に発した言葉がそれってあんまりじゃないですか?」

「彼氏!?ちょっと待って!彼氏ってどういう事!?」


突然のカミングアウトに、ユミコさんの目が輝く。


「実はね、みのりさんがボクにフォーリンラブしちゃいましてね。ここだけの話なんですけど、泣いて彼女にして欲しいとせがまれまして。いやいや、ではゆいにゃんの次の彼女にならしてやってもいいぞと。」


「何、そのセンスのかけらもない妄想は...。」


「いや、わかるよ!わかるよ。みのりさん。なんたって、ボクは可愛い顔をしてますしね。仕事もできるしね。運動だってできる細マッチョ。そりゃあね。ホレますよ。ホレてしまいますよ。」


「書類終わらなくて凍え死にそうだった所を、助けてやったのは誰よ。」

「あ?ゆいにゃんに嫉妬?いけませんねぇ。嫉妬は醜いですって。」


駄目だ。全然会話が成立しない。隣でユミコさんがウケている。


「でもいいわ!お似合い!ずっと前から思ってたんだよね~。佐々木はみのちゃんが好きだって。」

「ですからユミコさん。ボクではなく、みのりさんが僕にフォーリンラブで...。」

「いや~!良かったね!佐々木!安心したわ!おめでとう!」


佐々木は話を全然聞かないユミコさんに、プハッと笑うと、照れくさそうに頭を掻いた。


ユミコさんは、それを見て満足そうに笑う。


「大事にしなさいよ!」


ポンっと佐々木の肩を叩くと、そう言い残して仕事に戻って行く。


「大事に...してるよなぁ。」

「今のところはね!」

「...じゃ、これ二枚やる!特別だぞ!特別に二枚やるんだから、感謝しなさい!」


私の手のひらには、あのおいしいクッキーが二枚。


うん。


大好きだから、もらっといてやるか。


「で、あの~。突然ですけど、明日の夜なんか空いてます?久々なので、ご飯でもどうかと思うんですけど。」


佐々木が急にかしこまる。

照れていると、佐々木はかしこまるらしい。


明日は火曜日。


前なら毎週、ケータと過ごしていたはずの時間。


「・・・はい。空いてますよ。」


私もかしこまってみる。

前に進んでいくために。


「でも、なんで明日?今日じゃないの?」

「だって明日はボクのハッピーハッピーバースデーなのですよ。だからみのりさんに祝わせてあげます。」

「そうなの?」

「そうなの。だからケーキを買って、お祝いしなさい。ボクのうちで。」


ボクのうちで。


小さく小さく付け加えた最後のセリフに、少し戸惑う。


いや...でも...だって...彼女だし。


「じゃ、ゆいにゃんのポスター没収しに行くわ。」

「のおぉぉぉぉぉ~!!」


叫ぶ佐々木を後目に、仕事に戻る。


明日1月7日は、佐々木の誕生日らしい。

さて、急に言われてもプレゼントも用意できないぞ。


今日、帰りにでも探してみるか。


私の26歳のバースデーは人生史上最悪のバースデーだったっけ。


佐々木の26歳のバースデーは幸せな1日にしてあげたいと思う。

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