第17話

17 焼肉とんとん



「う、う、うみゃ~!!うみゃ~ね!この肉!!厚切り~♡」


肉の焼ける音、焦げた香ばしい香り。ここは焼肉とんとん。


でも今日、一緒にいるのは幼馴染のカオル。そしてカオルの彼氏、モト君だ。


「あい♡モトちゅん♡あ~ん♡♡」


カオル達がどんなにいちゃついても、気にするような客はいない。


今日も店内は騒がしい。

焼肉とんとんは大盛況だ。


「やっぱり、とんとんの肉は旨いね。久しぶりに食べたけど、裏切らない。」

「モト君はカオルに食べさせてもらえば、何でもおいしくなるんじゃないの?」

「それもある。」

「少しくらい遠慮して 否定しろよ。」


二人は相変わらずのラブラブっぷり。きっと喧嘩する様な事は起きないんだろう。お互いを好き過ぎて、何でも許せてしまうんだ。


結局は、似た者同士なんだろう。


「でもさぁ...。みのちん、良かったの?ササキングと付き合っちゃって。」

「ササキングって誰だよ...。」

「そりゃさぁ、ササキングも可愛い顔してるし、仕事もできそうだし、モテるタイプだと思うけどぉ...あ、まぁ、全部モトちゅんには負けるんだけどねぇ♡きゃは♡」


きゃは♡ではない。


「カオルンはぁ、みのちんはオリオンに行くもんだと思ってたんだよねぇ?」


いらっしゃいませ~!!と元気な店員さんの声。


時刻は19時。


続々とやってくる客の対応に大忙しだ。それでも、にこやかに客を迎える。


肉良し。


店員良し。


これで繁盛しないはずがない。


「...良かったも何も...。オリオンはリスクを背負っても、私の背中を押してくれたし...」

「見て!このカルビ!肉汁じょわわぁ!」

「そんなオリオンがやっと、前に進む事ができるっていうこの機会に、私が背中を押してあげたかったし...。」

「うわぉ!このロース、ロースじゃない!!カルビ!!絶対カルビ!」

「佐々木だって、あんなに私を大切に想ってくれて...」

「肉汁じょわ~♡じょんじょわわぁ~」

「ずっと待たせる訳には...」

「トントントントン、トントロじいさん♪」

「トントロじいさんだって、ずっと苦しんでたし...。」

「誰だよ。トントロじいさんって。」

「聞いてたのかよ。」


カオルは年が明けたってカオルだ。


きっと80歳のおばあさんになっても、カオルはカオルのままなのだろう。


トントントントン、トントロじいさん♪


気に入ったらしく、ずっと口ずさんでいるカオル。モト君はそんなカオルの頭をなでなでしている。


「うん。間違いなく、みのちんは間違ったね。ま、いいんじゃない?なる様になるし。人生には間違えることも必要だわ。」


時々、カオルは不可解な事を言う。


...いや、不可解はいつもなんだけど、いやに真面目に不可解な事を言う。


「それにしても、ササキングとゆっくり話してみたいなぁ♪何回か見かけた事ある位だし、みのちんの彼氏なら、仲良くなってダブルデートもありじゃない?」

「ダブルデートしてたって、あんたたちは結局、二人の世界でしょうが。」

「ねぇねぇ?ササキング呼んじゃいなよぅ?」

「残念でした。佐々木は今、里帰り中で東京にいません。」

「何だよ~ぅ!じゃ、今度遊びましょうって、連絡入れてよ~!」

「わかったよ。」


私がしぶしぶ携帯を取り出すと、メッセージ着信を知らせるランプがついていた。


あ、騒がしいから、全然気づかなかった。


“悪い。全然時間取れなくて。部屋の片づけ頼める?今日は打ち上げで、俺は部屋にいないから、それなら大丈夫か?”


余程時間がなかったのか、ケータにしては、珍しく改行も、絵文字もない。


私はこの後の用事もなかったし、この二人はご飯食べたら、さっさと二人の世界だろうし、と、大丈夫だよと返信する。


...なるほど。掃除のバイトの約束はまだ生きてる訳か。そういえば、合鍵だって返してない。


でも、バイトだし、二人になる訳じゃないし...別にいいよね?


大丈夫だよね?


会わなくても、話せなくても、ケータの役に立てたり、力になれたりする事が嬉しかった。

嬉しいと、思ってしまっていた。


「ね~!ササキングにメールしたぁ?」

「今、するって。」

「トントントントン♪ひげじいさん♪あ、違った!トントロじいさん♪」

「ひげじいさんで、あってるけど。」


焼肉とんとんは今日も大盛況。

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