第10話

10 友達宣言



痛い…。


背中が痛い。


脈打つ度に苦痛を感じる程に。


意識がはっきりしてくるにつれて、痛みも増していく。


…あれ?


あれからどうなったんだろう。


放火犯は捕まったのか、みんなは無事なのか、ケータは…。


ケータは怪我をしていないだろうか。

ちゃんとステージで、パワフルなパフォーマンスが出来るのだろうか。


脳が活動を始めると、いてもたってもいられなくなる。


「…みのりん??目、覚めた??」


私のベッドの傍らにいたカオルが、起き上がろうとした私の気配に気づいて声をかけてくれる。優しくて、柔らかな声。


「カオル…ケータは?みんな無事?」


カオルはホワッとあたたかく笑う。


「無事だよ。火傷したのは犯人と、どんくさいみのりんだけ。」


軽く毒を吐きながらも、カオルは涙目。心配をかけてしまったようだ。


「でもみのちん。大丈夫。背中の火傷はそんなにひどくないって。半袖だったから、二の腕の所は少し残るかもしれないけど、気にならない位にはなるだろうって。」

「でも、めちゃめちゃ痛い…。」

「2,3日は痛いって言ってたよ。痛み止めも入れてるはずだけど、痛みがひどいようなら、お医者さんに言って、痛み止め増やしてもらってもいいかも。あ、そうそう。みのちんのご両親にも連絡したよ。明日には上京してくるって。」


田舎に住む両親にも心配をかけてしまった。


「もうすぐ面会時間終わるから、私は帰るね。看護師さん呼んでくるよ。」


時計を見ると、もう夜の九時。12時間近く、意識を失っていたらしい。


「ごめんね。心配かけちゃったね。」

「ホントだよ。今度おごってね。ポッキー。」

「ポッキーでいいのかよ。」

「アポロ付きで♪」

「安い女だなぁ。」


扉の隙間からひらひらと手を振って去って行く。

カオルは春の花に舞う蝶々みたいだ。


でも目覚めたときに居てくれたのがカオルで良かった。


一人の空間になると、更にじわじわと痛みが襲ってくる。痛み止め増やしてもらおう…。


コンコンとノックの音がする。看護師さんかな?はい、と返事をすると、顔を出したのはケータだった。


「大丈夫か?」

「ケータ!?なんで!?」

「俺も検査入院させられてる。お前と一緒に吹き飛ばされたからな。」

「ごめんなさい…。怪我は?大丈夫?」

「俺はどこも何ともない。なんでお前が謝るんだよ。」

「だって。」

「でも無茶しすぎだからな。」


もう返す言葉もございません。


「女なのに、こんな傷、体につけんな。」


ケータが私の包帯だらけの腕に、そっとふれる。その眼はどこか悲しそうで、どこか悔しそうで。


「でも、大丈夫なんだって。背中もひどくないし、腕もそんなに気にならなくなるって。」


面会時間を過ぎた、病院はとても静か。


私の心臓の音が、病室中に響いてしまいそうな程。


「だから、大丈夫!」


これ以上、ケータに心配はかけたくない。


「…大丈夫…ねぇ…。」


ケータが独り言のように呟いた。


「お前は大丈夫じゃない時ほど、大丈夫って言うんだわ。自分で気づいてないの?」


ケータの目に射抜かれる。


気づいて…なかった…。


だけど、ケータの言う通りなのかもしれない。


今まで辛いことがあると、そう遣って乗り越えてきたから、つらい時に大丈夫というのが癖になっていたのかもしれない。


「痛いなら痛いって言え。さっき、お前の友達に言ったみたいに。」


さっきのカオルとの会話を聞いていたらしい。


私、カオルには自然と甘えていたんだな。

そんなことにも気づいていなかった。ケータは私のことちゃんと見てくれているんだな。一人の人間として。


「辛い時は辛いって言え。お前は本当に甘えベタだよな。」


そう言って、私の頬に触れるケータ。

優しく、まるで小さい子供をあやすように。


「もう少し頼れよ。トモダチだろ?」


どうやら、私はもうケータのオトモダチらしい。男女の友情は成立するのかなんて、長年論議されてきたけど、私がこんなにやましい気持ちでいるのに、オトモダチなんて成立するんだろうか。


でも、もうそんな事はどうでもいい。私はこの手を離したくない。


ケータが友達としての私を必要とするなら、喜んで友達になろう。


「…今度からは、ちゃんと頼る。トモダチだから。」


私の言葉に、これ以上ない位に優しく笑うケータ。


ダメだ。


この人を好きになったら、絶対私が傷つくことになる。二人で幸せになんてなれるはずない。好きになっちゃダメだ。


神様、これ以上ケータを好きになりませんように…。

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