第4話

4 綺麗なお姉さん



「え?放火?」

「そうなの。最近この辺で続いてる不審火、放火の可能性が高いらしいよ。」

「じゃ、この間ゴミ捨て場が燃えたって、あれも?」

「可能性高いよね~」


職場の先輩、ユミコさんは難しい顔をして、腕を組む。


「早く犯人つかまるといいですね。」

「ほんとほんと!これじゃ、三か月後のお祭りも安心して開催できなくなっちゃう!」

「お祭り!もうそんな時期なんですね♪」


私の会社では年に一度、近隣の皆様、社員のご家族を招いて、大きなお祭りをする。


毎年メインステージでは、そこそこ名の知れたアイドルやミュージシャンなんかが来てくれて歌ったりしている。みんな楽しみにしているお祭りだ。


「そうよ♪だから今日15時から、お祭りの会議入ってるから、遅刻しないようにね!」

「わかりました!」


お祭りの会議は、仕事の会議とは違ってとっても楽しい♪

どんなゲームをして、どんな屋台を出すのか。

まるで文化祭の気分。

今年のメインステージで歌ってくれるのは誰だろう。

去年は部長の趣味で、演歌歌手になってしまったから、今年は若者系を呼びたい!


そういえば...。毎年候補にだけ上がるのがサンクラだ。あんな大物来てくれる訳ないのに、毎年誰かしら名前を挙げる。今年はなるべく耳に入れたくない名前だ。


嫌な事を思い出す。


「お!みのちゃん、チャイムだ!外へランチ行こう!」

「はい!」


会社の外はビル街。お昼になると色んな屋台がやってくる。良く見て、お祭りの参考にしよう♪


「そういえば、みのちゃん?彼氏とはどうなのよ?うまくいってるの?」


ユミコさんが綺麗な顔を意味ありげに傾けて、私をこずく。


「…別れました。」

「い!?...はい、ごめんなさい。今の質問はなしで。」


ユミコさんの変わり身の早さに少し笑ってしまう。


「いいんです、もう。浮上し始めてるんで。」


そう。

私はもう、どん底にはいない。


三年も付き合ったと思っていた。


だけど、三年なんてこんなにもあっけない。


もう苦しくないと言ったら存分に嘘だけど、もう戻りたいとも思わない。


ただ、里美は別だ。


最初はどうして何も言ってくれないんだと里美を恨んだ。でも最近は、少しずつ変わってきている。里美も苦しんでいたんじゃないかと。今も。苦しんでいるんじゃないかって。


お人よしすぎるかな。


私が彼女の立場でも、ちゃんと言えたのだろうか。親友に「あなたの彼氏を好きになりました。」なんて。


...言えないかもしれない。


想いを秘めているうちに、その彼とうまくいってしまったら。


ますます友達に告白しずらくなるんじゃないか。申し訳なくて合わせる顔がないんじゃないかって。


少なくとも、彼女に関してはそう信じていたい。育んだ友情は本物だと信じたい。彼女との時間は13年。


人生の半分だ。


人生の半分を嘘にはしたくない。


「まぁさ、浮上し始めてるなら、良かったけど。間違いなく言えるのはさ、みのちゃんが幸せに向かって一直線に進んでるって事だよ!」

ユミコさんは女神の様な笑顔を私に向ける。


「みのちゃんに間違いはない!」


あぁ、この人が先輩で良かったな。


見上げると雲一つない青空。


何だか本当にいい方に人生が向かっている様な気がしてくる。空気だっておいしい。


あ、それは屋台のせいかも。


「よし!じゃぁ今日はパイセンらしく、みのちゃんにごちそうしたいと思いま~す!」

「ユミコパイセン、あざぁ~っす!」


ユミコさんが私の背中をなでるように抱く。


いつもは冷たく感じるビル街。


残暑のせいか、

ユミコさんの優しさのせいか、

今日はなんだか暖かい。

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