第7話
あれ(第2話)以来、先生の身体に触れることはできないでいた。期待はしないようにしていたが、また触れたいと思っていることは事実だ。先生の心からの愛を私が得られるとは思っていない。せいぜい、当直明けでなんでもいいから労力を割かずに抜きたい、と思っているときぐらいしか相手にされないのだろう。しかし、それで私は納得をしていた。指一本触れたくないほど全く相手にされていないわけではないのだから。
男性の性欲に救われた、と思う。男性は性欲がとても高まっているときは、よほどでない限りどんな女でも相手にできると聞く。もちろん個人差はあるだろうが、先生は少なくともその傾向があったのだ。男性には多くの種を多くの女性に撒き散らしたいという本能的な要求があり、そのために女性は泣かされることも多くあるのだが、私のようにその本能のおかげで好きな男性の精液を飲み込むことができる女性もいるのだ。
先生の精液は私の一部となった。私の心は私の身体全体に広がっており、世界をも取り込んでいた。先生も、私の心の一部となった。
私の本能は、先生の子を妊娠したいと要求していた。
実際のところ、先生のことが好きなのか、先生の子を妊娠したいのか、どちらなのか自分でもよくわからない。先生のことを愛してはいないということははっきりしている。なぜなら私は先生の幸福を願っていないから。先生が社会的に死ぬことを望んでいるから。
世間では愛があるなら避妊しましょうとキャンペーンが張られることがあり、大学でも活動好きなグループが避妊具を学生たちに配るイベントをしていたことがある。
私はそれに疑問を感じていた。愛しているなら、愛する人を妊娠させたいと思うのではないか。それとも男性は、種を撒きたいという本能的欲求があるから、愛していようがいまいがどんな相手でも常に人を妊娠させたいと思っているのだろうか。だとしたら避妊具を配るイベントの趣旨も理解はできる。
私は東京の国立医学部出身の優秀な先生が、脳の能力の限界に達して苦悩している様を見るのが好きだが、その理由のひとつが、能力の限界に達すると、理性が薄まるからだ。理性を失っているとき、本能が顔を出す。
先生が理性を失い、本能のままに種を撒き、自分の子孫を残す様が見たい。
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