第54話

講義が終わると、湊人はすぐに拓海の入院する病院へ向かった。

一時間後、病院に到着した湊人は拓海の病室へ向かった。結局午後の講義はすっぽかす形になったが、拓海のことのほうが重要だった。それも珠月の事故が関係しているだって?とても落ち着いて講義を受けられる気分ではなかった。


病室に到着すると、部屋の前にふたりの刑事が待っていた。

神楽木は腕組みをし、じろりと湊人をにらみつけた。

「遅かったじゃねえか」

神楽木が言うと、「すみません」と湊人はとりあえず謝った。この刑事は苦手だなと内心思った。

「まずは友人に挨拶してやれ」

神楽木は言いながら親指でくいくいと病室を指差した。

「ありがとうございます」

湊人は礼を言うと、病室に入った。

病室では拓海が横になっていたが、目は開いていた。湊人に気づくと拓海は「よう」と声を出し片手をゆっくりあげた。

「目が覚めたみたいでよかったよ」湊人が言うと、「心配かけたな」と拓海は言った。

「珠月は?あれからどうなった?」

拓海が訊くので、湊人は「元気だよ、記憶喪失は相変わらずだけどな」と言って、先日大学病院へ行ったこと、治療についてのことを話した。

話を聞きながら拓海は「本当にその治療で珠月の記憶が戻るのか」とおどろいた様子だった。

「まだわかんない。それに、リスクもあるから、北村さんと親御おやごさんたちがどうするか次第だ」

「そうか」ぽつりと言うと、拓海は押し黙った。沈黙ちんもくが少し続くと、湊人はなにを話せばいいか迷った。そういえば事故の前に最後に会話をしたのは、あの大学で言い合いになった日だ。拓海とはあれ以来、まともに会話をしていなかった。なんとなく気まずいなと思った。

「珠月の」湊人が黙っていると、拓海が話しはじめた。「珠月のことだけど……」

「あ、ああ、うん」

「湊人にいろいろ押し付けちまって、その、悪かったな」

「ああ、いや、おれも悪かったよ」

拓海から出た言葉が湊人には意外だった。

「その、珠月が大変なことになったのは正直ショックだったし、ほんとはおれがそばに居てやんなきゃなとか思ったんだけど、まずは確かめるのが先だって思ったから」

「確かめる?なにを?」

すると拓海はしばらく黙ったかと思うと、なにかを決意したように口を開いた。

「あの夜……、珠月が事故にあった夜、なにがあったのかを確かめたかったんだ」

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