第50話
「さて」早瀬は三人の姿が見えなくなると、「じつはきみに先に話しておきたいことがあってね」と湊人へいった。
「は?ぼくに、ですか?」
「あいつから言われていてね、きみにはなんでも話してやってくれって」
あいつ、とはやはり准教授のことだろう。
「はあ、そうなんですか」
「もちろん、本来はだめなんだけどね。ちょっとことがことだ。事情も聞いてる」
そう言うと、早瀬は湊人を先ほどの検査室へ招き入れた。
検査室のなかでは助手の高嶋医師がパソコンの画面を食い入るように眺めていた。
「どうだ?」
早瀬が訊くと、「やっぱり間違いないですね」と高嶋医師は応えた。
「そうか」早瀬は深いため息を吐いた。「神林くん、ここを見てくれ」
そう言うと早瀬はパソコン画面に写っている一部を指した。だが、湊人が画面を見てもさっぱりだった。とくに変化があるようには思われない。ここがどうしたというのだろう。
「わかりづらいかもしれないが、ここ、少しだけシミみたいになって見えないか?」
「はあ、言われてみれば」
たしかに少しだけ他の
「そう、それだけ
早瀬がそう言ったので、湊人は驚いて早瀬を見た。
「いったいどういうことですか」
「このシミみたいに見えるもの、これは
「機能を停止?」
「うん、時間と場所をずらして何度か確認したが、間違いない。高嶋くんも同意見だった。これだけ小さな変化で、かつ海馬は脳の下側にあるから、これまでの検査では気づけなかったんだろう」
「あの」湊人は恐るおそる訊いた。「それはどういうことなんでしょうか」
「北村さんの逆行性健忘は、この海馬の一部の機能停止が原因かもしれない、ということだよ」
湊人は早瀬の話を聞きながら、体がぞわりとした。ビンゴだ。やはり珠月の記憶が戻らないことにはちゃんと理由があったのだ。海馬の一部分の機能の停止、間違いないと思った。
「じゃあ、この海馬が正常に働けば、北村さんの記憶も戻るということですか」
「いや、ことはそう簡単じゃない。まず、事故の際、
「じゃあ、それを解消すれば……」
そこまで湊人がいうと、早瀬はくびをふるふると振った。
「脳自体が損壊していないなら、やはり彼女自身が
「そんな……」
湊人は言葉を失った。
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