第49話
それから一週間後、湊人はふたたび大学病院へ訪れていた。
この一週間で拓海の状態、珠月の記憶についての変化はやはりなかった。
拓海の病院には一度、見舞いに行った。眠る拓海は一部の包帯が取れ、見た目は回復に向かっているようだった。だが、珠月と同様にいつ目覚めるかわからない。あまりこの状態が長引くようであれば、障害が残るかもしれない。とてもいい状態とは言えなかった。湊人は持参した見舞いの花を花瓶に生けると、拓海の病室をあとにした。
また、この一週間の間に冬休みも終わり大学の授業も再開した。珠月も拓海もいない大学生活はとても寂しいものだった。ひとりで講義を受け、同期生とは簡単な挨拶や会話だけを交わし、帰宅してからアルバイトにふたたび出かけた。
通学の間、講義の間、アルバイトの空き時間と、湊人は変わらずに珠月のことを思った。あれからふたりで会うタイミングはなかったし、大学病院へ行くにも両親が一緒なので湊人はなるべく珠月を意識しないようにした。
だが、あのよみうりランドへ行った日以来、珠月を想う時間は確実に増えていた。湊人はどうしたものかと考えた。いや、どうしようもないのだが。珠月は記憶を失い、その記憶が戻れば拓海とふたたびやり直すだろう。
拓海にしてもいまは眠っているが、これから目を覚ませば、また珠月との日々を始めるのだ。
こんな状態はいまだけの特別な時間なのだと、湊人は自分に言い聞かせた。
大学病院では受付を終えると、今回はすぐに珠月の名前が呼ばれた。
それから受付で本館の二階へ行くよう案内され、珠月と両親ととも向かった。案内された部屋の待合ベンチの前に早瀬医師と助手らしき白衣をきた男性が待っていた。助手の医師は
「では、こちらへ」と早瀬医師に示された部屋へ珠月は案内された。湊人と両親はベンチで待つよう言われ、検査は
珠月が検査室へ入っていくと、湊人と両親はベンチへ腰を下ろした。そうして珠月が検査を終えるまで待つこととなった。
珠月が出てくるあいだ、湊人は両親と話をしたり、スマートフォンを開いてSNSを眺めたりした。ただ待つだけというのは退屈な時間だった。そして時間に余裕ができると、やはりぼんやりと珠月のことを考えはじめた。
しばらくして、まもなく一時間が経とうとする頃、ようやく珠月は検査室から戻ってきた。
「お疲れ様でした。結果は後ほどお知らせしますので、午後に診察室にいらしてください」
早瀬は珠月にいうと、「神林くん、そういえば彼は元気にしてるかい?」と湊人へ話しかけてきた。早瀬は准教授のことを言っているのだと思った。
「はい、元気そうですよ。年明けてからはまだお会いしてないですけど」
「そうか、よかったらちょっと話を聞かせてくれないかな」
早瀬がそう言ったので、珠月と両親たちは病院の敷地内の記念館にあるレストランに行くといい、珠月の母は湊人には話が終わったら来るよう言って三人は階段を降りていった。
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