第47話

久しぶりに珠月に会えるからなのか、珠月の記憶を取り戻すなにかが見つかるかもしれないという期待きたいなのか、待ち合わせの駅で湊人は落ち着かない気持ちを抑えながら珠月たちが到着するのを待った。

大学病院は最寄り駅から徒歩三分とわりと駅近ではある。

だが湊人はこの駅へ到着するまでに、じつに四回の電車の乗り換えを経てようやく到着した。

駅舎えきしゃは小さく、古いロッジのような平屋ひらやの建物で、駅から降り立つと古い家々やシャッターを閉めたかつての商店が並び、コンビニやスーパーのような建物は目に入らない。駅前のロータリーには端に数台タクシーの待合スペースがあるが、いまはタクシーは出払っているようだ。

改めて田舎だなと湊人は思った。


しばらく待つと、駅舎から珠月たち家族が姿を見せた。

珠月を見るとどきりとした。見慣れているはずの珠月を、どうしても意識してしまう。

「お待たせ」

珠月が言うと、「こんにちは」と続けて両親が挨拶をした。

「こんにちは、今日はよろしくお願いします」

湊人はいって軽く会釈えしゃくをした。

「わるいね、こんな遠い場所まで付き合わせて」

「いえ、とんでもないです」

「景色、すごかった。めっちゃ山。わたし、八高線はちこうせんって初めて乗ったかも。あ、この二ヶ月くらいなんだけど」

珠月がいうと、「そりゃそうでしょ」と湊人は笑った。

「でも、おれも初めて乗ったかも、八高線」

「さ、行きましょうか」

珠月の母がいうと、四人は大学病院へ向かって歩き出した。


駅から歩きはじめ、程なくして大学病院の建物が見えてきた。大学病院は広大な敷地のなかにいくつも建物があり、病院の本館、南館、東館、西館に分かれ、その他に病棟、MR棟、大学の棟や図書館などがあった。

湊人たちは地図を頼りに本館の初診受付窓口を目指して歩き、到着した窓口へ珠月の名前を告げ、紹介状を提出した。

問診票もんしんひょうを書くよう言われ、珠月と両親は問診票を記入してこれも窓口へ提出した。

待合室でしばらく待つよう受付の女性に言われ、待合室のベンチに座って待つことにした。

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