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第46話

年が変わり、二千十九年になった。

年越しを湊人は実家で過ごした。

珠月や拓海のことが気になりもしたが、珠月の両親からは正月明けに一緒に大学病院へ付き添ってほしい旨の連絡を以前にもらっていたため、それ以降連絡がないのは珠月の状態に変わりがないからだろう。

拓海についても拓海の両親や谷原刑事から連絡はないので、まだ眠り続けているのだろう。また、達城亮たつしろ りょうつかまったという連絡も報道もない。

年末年始は世間のしずけさと合わせて、湊人の状況も落ち着きを見せていたので、湊人はこうして実家へ帰省をしていたのだった。実家とはいえ、同じ東京都内の西側にある、二十三区からは離れた郊外こうがいのベッドタウンにある。いまは大学へ通うため区内でひとり暮らしをしているが、地方のように距離があるわけではないので、帰省しようと思えばいつでも帰省できる距離だ。

だが、距離が近いがゆえにわざわざ帰省しようという気も起きず、大学に入りひとり暮らしを始めてからは今回が初めての帰省となった。

実家は退屈たいくつだった。地元の友人たちへ連絡をとったが、それぞれ家族や恋人と年末年始を過ごすということだった。

湊人は実家の居間にあるコタツに横になり、ただぼんやりと珠月のことを考えた。

そうすると浮かんでくるのは、先日珠月と一緒にイルミネーションを見にいったよみうりランドのことばかりだった。

その時の情景じょうけい、珠月の横顔、表情、交わした他愛たあいもない会話の数々。そのどれもが湊人にとっては特別なものに感じられ、まるで夢のなかの出来事だったように思われる。

叶うなら、また珠月とあの日のような時間を過ごしてみたい。

湊人は頭の後ろで手を組み、寝っ転がったままそんなことを思った。

拓海と珠月の恋愛を応援していたはずなのに。

いつしか、湊人は自分の幸せを願うようになっていた。

もしかしたら、もう自分は引き返せないところまで来てしまったのかもしれない。

そんなふうにすら思う。


実家で過ごした年末年始の数日、湊人は珠月のことをかえし繰り返し思い返していた。

帰省を終え、ひとり暮らしのアパートに戻り、休んでいたアルバイトのシフトに復帰すると、ふたたび現実に戻ってきたように思った。

アルバイトで忙しくなると、自然と珠月のことを考える時間は減った。そして手が空けばまた珠月のことを考えた。

それから数日が過ぎ、やがて珠月の大学病院へ転院の日を迎えた。

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