第45話

イルミネーションの光が反射はんしゃし彩る横顔、そのひとみはまるで子どものように目をかがやかせていた。

イルミネーションを眺める珠月をみて、湊人は改めて、おれはこの子が好きだと思った。

クリスマスシーズンに、珠月と一緒にイルミネーションを見に、よみうりランドなんていうデートスポットに来る日がくるなんて、湊人は考えもしなかった。

拓海からあの告白の相談を受けた日、湊人は何度あの日に戻り、自分も珠月が好きなのだと言えばよかっただろうかと思った。その度に拓海をうらやみ、珠月の幸せな笑顔を自分が独占どくせんできたなら、どれだけよかったかと思ったことだろう。いつしか湊人の胸は、珠月のことで溢れるようになっていた。いや、もしかしたら高校の頃からずっとそうだったのかもしれない。例えそれが、拓海の彼女になったとわかっていても、変わることはなかった。

ふたりが幸せになってほしい、その気持ちにうそはなかった。それでももう一方で思わずにはいられなかった。もしかしたら、北村さんがおれの彼女になっていた未来もあったのだろうか、と。

こんな気持ち、口にだすことはきっとないだろう。珠月に伝えることは、この先もないだろう。

だから、と湊人は思う。

だから、せめていまだけはこの幸せを、珠月の存在そんざいを、この片想いを噛みしめさせてほしい-。

そうやって思っていると、目にじんわりと涙がにじんできた。湊人は珠月にさとられないようにこっそりと目尻めじりぬぐった。湊人はいま、泣いてしまうくらいに幸せなのだと感じていた。


噴水のショーを終え、珠月と湊人はゲートへの道を戻り始めた。

「いいの?せっかく来たのに、アトラクション乗らなくて」

湊人が珠月に訊く。入園してからイルミネーションは見てまわったが、アトラクションにはいっさい乗っていない。なんだかもったいないような気もした。

「いいのいいの、いっぱいイルミ見れたし、今日はもう満足」

「そっか、ならいいけど」

「あんまり遅くなると、ふたりとも心配するし。それに、今日でぜんぶ楽しんじゃったら、次きた時の楽しみがなくなっちゃうでしょ」

珠月はそう言ってにやりと笑った。

たしかに、それもそうだな。湊人はそう思い、「じゃ、帰りますかぁ」といった。


駅で電車に乗り、途中の乗り換えで珠月が先に席を立つと、「今日はありがとう、おかげで楽しかった」と礼をいい電車を降りていった。

珠月の姿が見えなくなると、湊人はふかいため息をついた。

珠月への想いと、拓海への罪悪感と、多少の背徳感はいとくかんとが、湊人のなかでごちゃ混ぜになっていた。

ただ、今日は本当に幸せだった。それだけは湊人のなかで色褪いろあせなかった。そして、この先も今日という日を忘れることはないだろうと、湊人は心にちかった。

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