第44話

よみうりランドのゲートをくぐり、珠月は足早にイルミネーションに向かっていった。

「はやくはやくっ、みて、すっごいキレイだよっ」

珠月ははしゃいだ声をあげ、湊人へ手招てまねきをしていた。

「うわぁ、ここのイルミ、来てみたかったんだよねー」

珠月によれば自宅待機じたくたいき退屈たいくつしていたところ、テレビでイルミネーション特集を行っている番組があり、ここ、よみうりランドのイルミネーションが紹介されていたらしかった。

そこへちょうど湊人からの連絡があり、予定が空いていればと湊人を誘ってみたとのことだ。

たしかに拓海のことを思い出していない珠月にとっては、誘える相手となれば湊人くらいなのだろうが、湊人の胸中きょうちゅう複雑ふくざつだった。

拓海の立場もあるが、なによりいまの拓海の状態を考えると純粋じゅんすいにこの状況を楽しめるのだろうかという思いがあった。

だが、それはいまの珠月には関係のないことだ。それは湊人にもよくわかっていた。

であれば、せめて珠月に今日くらいは楽しんでもらわないとなと思った。


よみうりランドは丘陵地帯きゅうりょうちたいにあり、いわゆる山の上の遊園地だ。吹き抜ける風は冷たかった。

湊人は珠月が案内するままにイルミネーションをみてまわった。イエローグリーンの彩りが広がる正面のガーデンエリア、虹色のライトが点滅する光のトンネル、紫色のライトに浮かび上がる木々、ライトで山をかたどったジュエリー・マウンテンなど、バリエーション豊富なイルミネーションがたくさんだった。

これはたしかに見応えがあるなと湊人は感じ、山の寒さも忘れるくらいに楽しんでいる自分がいることに気づいた。

それから今度は噴水ふんすいのショーを珠月の案内で見に行くことにした。放出される噴水の水をイルミネーションが浮かび上げ、音楽に合わせて水しぶきがうねり、高く上がり、回転して圧巻の演出だった。

となりの珠月は手を叩いたり、感嘆かんたんの声をあげたりして喜んでいた。珠月のその姿を見られて、湊人は今日は来てよかったなと感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る