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第41話

間もなく数日で世間はクリスマスを迎えようとしていた。

結局、珠月の記憶は戻らないまま、それどころか拓海まで意識不明で昏睡状態だ。こんな形で今年のクリスマスを迎えるなど、数ヶ月前には思いもしなかった。

クリスマスの雰囲気ふんいきにぎわう街を歩きながら、湊人は自身のスマートフォンの知らない番号の着信に気づいた。

「もしもし?」湊人は不審ふしんに思いながら電話口へ話しかける。

『もしもし、神林湊人くん?』

「はい、そうですが」どこかで聞き覚えのある声だと思いながら湊人は応えた。

『先日はどうも。警察の谷原たにはらです』

「ああ、谷原さん。この間は送ってくれてありがとうございました」

谷原刑事からの連絡だった。

『あれから捜査を続けて、被疑者ひぎしゃを特定したから、念のためお伝えしようと思って』

「被疑者を特定?それじゃ、拓海に暴行した犯人が捕まったんですか」

『うん、一部ね。このあいだ教えてくれた河瀬真琴さんに話をきいて、三人の被疑者について聞けたんだ。そのうち二人は確保したんだけど、どうやらいちばん暴行をしたひとりがまだ捕まえられなくてね』

「じゃあ、まだひとりは行方を追ってるんですね」

『そう、今、メモ取れる?』

「あ、ちょっと待ってください」湊人はスマートフォンを一度耳から離し、メモ帳アプリを開いた。「お願いします」

『いい?タツシロリョウ、達人の達に、お城の城、なべぶたの下に口の亮』

湊人はメモを取りながら漢字変換する。達城亮たつしろ りょう……、聞いたことのない名前だった。

『どう、聞いたことあるかな』

「いえ、初めてきく名前です」

『そうか、もしかしたら神林くんならなにか知ってるかと思ったんだけど』

「すみません、力になれず…」

『ああ、いいよいいよ。またなにか思い出すことがあったらこの番号、ぼくの携帯だから連絡して』

「わかりました。でも、こんな重要な情報、教えて大丈夫なんですか」

『ああ、それなら明日、ニュースで名前が出るから問題ないよ。じゃあ、よろしくね』

そういうと谷原は電話を切った。

達城亮……、改めて谷原が口にした名前を思い返した。だが、やはり知らない名前だった。

名前からして男性なのは間違いない。この間の話を考えると、この男へ拓海から殴りかかったのだという。しかし、拓海とこの達城との関係はわからない。拓海がキレるほどのなにかを、この達城はしたのだろうか。しかも青山にあるクラブで。それはいったいなんだろうか。

湊人は考えてもさっぱりわからなかった。

そこで達城にばかり意識がいき、その前に谷原が言った言葉を改めて思い出し、はっとした。

谷原はたしかに、河瀬真琴に話をきいてと、そう言った。であれば、河瀬と達城が繋がっていたことになる。そうなら、河瀬と達城の関係はどういうことになるのだろう。

例えば河瀬と達城が恋愛関係にあり、拓海は河瀬に気があって、いわゆる痴情ちじょうのもつれからケンカに発展したとは考えられないだろうか。

だが、それなら拓海は珠月がいながら河瀬に恋愛感情を持っていた前提が必要だ。

たしかに拓海の浮気を疑ったが、この短期間でそんな急速に河瀬との関係を深めていたのだろうか。それであれば、珠月と河瀬、拓海はこのふたりと二股をしていたことになる。

そこまで湊人は考え、至極しごく単純なことに行き着いた。

そうだ、それなら河瀬に話をきけばいいのだ。同じ大学の学生だ、ツテを辿れば河瀬真琴に直接話を聞けるかもしれない。

湊人はそう思い、河瀬に会ってみようと考えた。

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