第35話
「あの」湊人はさっそく谷原へ訊ねる。「拓海が意識不明の重体って、いったいどういうことですかっ」
「その前に、こちらの質問にまずは答えてもらえるかな」
谷原は湊人をなだめるように言う。
「最後に染川くんと会ったのは?」
続いてそう質問する。
「え…っと」湊人はすこし考え、拓海と
「うんうん、そのとき彼はどんな様子だった?」
「…素っ気なかったです。というのも、拓海とはその日ケンカをしてしまったので」
「ほう、ケンカ?」
谷原のまゆげがぴくりと動いた。
「ああいや、たいしたことではないんですけど、最近、拓海が彼女への
湊人は正直に伝える。ただし、珠月の記憶喪失については触れずに。
「ふぅん…。彼女に冷たく、ね。きみはその彼女と知り合いなのかい?」
「はい、高校生のときからの同級生なので、拓海よりも前からの知り合いです」
「おい」
それまで
「たらたらとくだらねえこと訊いてんじゃねえよ」
整った顔立ちと
「あ、はい、すんません…」
「おい、おまえ」続いて湊人の方へ向き直る。「染川拓海からなにか訊いてないか?最近知り合ったやつの話とかだ」
「い、いえ、とくになにも…」湊人は神楽木のくちの悪さに
「なんだ?言え」
「最近知らない女の人と一緒だったことがあって、それもケンカの原因のひとつだったなと…」
「ガキのケンカなんか興味ないんだよ。で、その女の名前は?」
「すいません、えっとたしか、かわせ…、そう、かわせまことって言っていました」
「漢字は?」
「話しながら訊いただけなのでそこまでは…。ただ、同じ大学の二年生だと言っていました」
神楽木は少し
「ほかには?」
「それくらいです、思い当たるのは…」
「わかった、もういい」それで彼は湊人へすっかり興味を失ったらしく、谷原に拓海のもとへ案内するよう指示を出した。
谷原が病室へ案内する途中、拓海は複数人から
また、暴行を受けた場所は青山の一角にあるクラブで、暴行を行った犯人たちはそのまま逃走したということだ。
その話を聞きながら、湊人は頭に疑問符がたくさん浮かんでいた。
拓海がクラブに出入りしていた?しかもそこで
湊人には意味がわからない。拓海はたしかにチャラい身なりをしてはいるが、クラブに行ったという話はこれまで聞いたことがない。それに暴行を受けたということだが、拓海と犯人たちの関係はいったいなんだったのだろうか。たまたま居合わせた人間と
谷原の話を聞いても、それが拓海の話とはとうてい思えなかった。
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