第33話

珠月について湊人が駅までの道を歩いていくと、やがてひとつのビルの前に到着した。

「ここっ!インターネットで調べてみて、入ってみたかったんだ」

そう言い珠月が指差した看板かんばんには、スイーツ食べ放題ほうだいという文字があった。スイーツとパスタなどの食べ放題の店で、都内には何店舗かある有名店だった。湊人も以前から店の名前は知っていたが、実際に入ったことはなかった。

珠月に促されるままにエレベーターで店舗のある階まで上がり、エレベーターを降りると湊人の目に飛び込んできたのはピンク色の店内だった。店内全体がピンク色をあしらった壁やテーブルをしており、ところどころにハートの形をした装飾そうしょくなどが施されていた。

料理は食べ放題制となっており、最初に料金を払ったあとテーブルに案内され、そこからふたりで料理やケーキを取りに席を立った。

店内の様子が気になり湊人はどうにも落ち着かない気分だったが、片っ端から取ってきたケーキやパスタなどを口にする頃には店内の雰囲気などどうでもよくなるくらいに食べ物に集中していた。食べ放題は二時間制となっており、できる限り食べ尽くしてやろうと貧乏精神びんぼうせいしんを丸出しの湊人だったが、一時間も経つ頃にはもう甘いものはしばらくいらないと思うくらい、お腹がぱんぱんになっていた。

向かいに座る珠月もどうやら同じ気持ちのようで、「あー、もう食べられないよぉ」とお腹をさすりながら幸せそうに言った。

「二時間って、食べ続けるのきっついね」

珠月がそう言ったので、

「うん、おれももうお腹いっぱい。でも、おいしかった」

湊人はコーヒーを口にしながら言った。

「ね、あのフランボワーズのケーキとピスタチオのケーキがとくにおいしかったな」

「ああ、わかる。あれ、うまかった。あと、チーズケーキも、甘すぎなくてちょうどよかった」

湊人と珠月は、ふたりでそんなケーキの感想を言い合いながら、ゆっくりと時間いっぱいまで店で過ごした。

食べ放題の時間も終わりになり、湊人たちは店をあとにした。時間も二十一時をまわっていたので、さすがに今日のデートも終わりかと、湊人は寂しく思った。そして珠月に送っていくと声をかけようとした、その時だった。

湊人のスマートフォンが震えた。

湊人は着信の通知画面に目をやり、怪訝けげんに思った。

知らない番号からの着信だった。

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