第31話

空飛ぶペンギンたちを見終わると、ふたりは水族館を出てレストラン街に足を運んだ。

ペンギンの水槽を見終わった珠月は握っていた湊人の手を離すと、何事もなかったかのように「いこっ」と声をかけ、前を進み始めた。湊人は結局、先ほど珠月が手をつないだことについて触れることはできなかった。


サンシャインシティの四階にあるレストラン街をしばらく見てまわり、ふたりはハンバーグの専門店に入った。

珠月はお腹が空いているのか、「ぜんぶおいしそう」とメニューを見るなり言った。湊人は「わかる」と言ってふたりで笑った。

注文してからしばらくして熱々の鉄板で運ばれてきたハンバーグは、油の飛びはねる音が食欲をそそり、おいしそうに肉汁が溢れていた。

湊人と珠月は会話をすることも忘れ、夢中でハンバーグを口に運んだ。


ハンバーグを食べ終え、食後のコーヒーが運ばれてくる頃には、ふたりとも満足といった様子でくつろいでいた。

昼過ぎになり、客足が減ったのか店内は閑散かんさんとし始めた。

「うー、お腹いっぱい」

珠月はお腹をさすりながら言った。

「うん、このハンバーグ、思ったよりボリュームあったね」

湊人もかなりお腹が満たされていた。

「幸せだねー、おいしいものをお腹いっぱい食べるって」

珠月の幸せという言葉に、湊人は一瞬どきりとした。

「北村さん、ずっと病院のごはん続きだったもんね」

「そそ、もう病院食の味、飽きちゃった」

「そりゃそうだよ」

湊人はそう言って笑った。長いあいだ病院にいたのだ、それも仕方ないだろうなと思った。

「ね、このあとどうする?」

珠月は楽しそうに湊人へ問いかける。

久しぶりに出かけられたことが嬉しいのだろう。まだまだ遊び足りないといった様子だ。

「そうだね…」湊人は少し思案した。この後の予定など考えていなかったからだ。「あっ、映画とかどう?」

「あー、それいいかもっ」

「でもいまの時期、なにがやってるかわかんないなぁ」

「じゃあさ、映画館行って、観たいのあれば観る感じでいいんじゃない?」

「そっか、それもそうだね」

そうしてふたりはコーヒーを飲み終えハンバーグ専門店をでると、サンシャインシティから池袋駅方面へ戻り始めた。

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