第30話

クリスマスも近いということもあり、十二月の池袋の街はにぎわっていた。

駅の東口の階段をあがると、駅前のロータリーにはツリーに雪の結晶、ソリに乗ったサンタクロースなど、たくさんのイルミネーションが飾られていた。

湊人たちは大通りを人波を避けながら進み、サンシャイン通りへ入る。そこかしこにクリスマスセールの文字、人前でも人目をはばからない、べったりとくっつくカップルたち。女の子数名で立ち止まり、なにかを食べながら大笑いをするグループ。看板を片手に甲高い声をあげる呼び込みのメイド服姿の女の子。クリスマスシーズンのサンシャイン通りは活気に満ちていた。

湊人は珠月を気にしながら、人波ではぐれないようにサンシャインシティの方面へ向かって歩いた。

「すごい人だね、池袋ってこんなに混むんだ」

斜め後ろの珠月が感心したように言う。

「うん、おれも久しぶりにきたけど、すごいな」

珠月にそう答える矢先、湊人は前から歩いてきた人とぶつかりそうになった。


やっとのことでサンシャインシティにたどり着き、ふたりは屋上階の水族館を目指した。

地下一階からエレベーターに乗る際も、長蛇ちょうだの列に並ぶことになった。

湊人は珠月に、並ぶけど大丈夫かと尋ねた。珠月は大丈夫と答え、ふたりは列の最後尾さいこうびに続いて並んだ。

サンシャインシティの水族館では、まるでペンギンが空を飛ぶように泳ぐ姿が見られると聞いて、湊人はそれを見に行きたいと珠月に提案した。珠月も興味津々といった様子でわたしも見たいと答え、今回の行き先が決定したのだった。

エレベーターを上がっても、やはり長蛇の列は途切れず、チケットカウンターまで再びふたりはチケットを購入する列に並ぶはめになった。

水族館に入る頃には、湊人はすでに疲れを感じていた。

水族館のなかでは、薄暗い通路を浮かび上げながら並ぶ水槽とその中に展示された水棲生物すいせいせいぶつの数々、巨大な水槽を泳ぐたくさんの魚や大きなエイ、それらを珠月は楽しそうに眺めては指差す。

そんな水族館での珠月の目を爛々と輝かせる姿に、湊人は今日は連れてきてよかったなと心から思った。

次々と並ぶ水槽を見ながら通路を進み、ふたりは建物の外に出た。目に飛び込んできたのは、いきおいよく上空を通過していったアシカだった。

「わっ、すごいっ!」

珠月が驚きの声をあげた。

高い位置にウォータースライダーのような透明な水路が備え付けられており、その水路をアシカが泳いでいたのだった。さらに奥には半ドーム型になった水槽があり、次々とペンギンたちが頭上を飛びまわるように泳いでいた。

湊人はその圧巻あっかんの光景に感動していた。

水槽を見上げる湊人の手に、そっと珠月の手が重なる。冷たい感触と柔らかな指の感覚。湊人は思わず隣の珠月を見やった。珠月は湊人には気にもとめず、上空を飛びまわるペンギンたちを嬉しそうに見つめていた。湊人は戸惑いながらも、至福しふくを感じずにはいられなかった。

こんな時間が、ずっと続けばいいのに。

珠月が、自分のものになればいいのに。

湊人はそう思わずにはいられなかった。

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