第28話

イルミネーションが明滅めいめつする。

大通りの坂を両側に街路樹がいろじゅが並び、その街路樹はイルミネーションで飾られ、夜の表参道を幻想的に彩っている。

表参道の坂はクリスマスシーズンを迎え、十二月の寒さにもかかわらず歩道にはカップルたちで溢れかえっていた。


染川拓海そめかわ たくみは、イルミネーションを横目に早足で表参道の坂を登っていた。歩道は人波であふれ、思うようにさきへ進めなかった。

河瀬真琴かわせ まことはすでに到着しているだろうか。拓海は焦っていた。だが、ようやく拓海は知りたかったことを知ることができる、そう感じていた。


表参道の坂を登りきり、やがて青山の裏路地に入った。指定された店の前に到着する頃には息が上がっていた。吐く息は白く染まり、夜の空気に溶けていく。

拓海は息を整え、その扉をくぐった。

刹那せつな、拓海の耳につんざくような音が次々と流れ込んでくる。クラブという店に入るのは初めてだった。本当にこんなところに真琴がいるのだろうか。拓海は薄暗い階段を降り、受付らしきカウンターへ向かった。

その後、バーカウンターでカクテルを受け取り、フロアの人波の中を進んだ。

真琴の姿を探しながら、フロアを歩いていると、後ろから肩を叩かれた。振り返ると、そこに河瀬真琴がいた。

真琴はミニスカートにオフショルダーのセーターと、派手はで刺激的しげきてきな格好をしていた。大学での出で立ちとは考えられないくらいのギャップがある姿に、拓海は驚いていた。

真琴は普段、大学では大人しい雰囲気ふんいきの服装をしていた。だが、もしかしたら、こっちが本来の河瀬真琴の姿なのかもしれないと思った。

拓海は真琴に話しかけようとしたが、まわりの音が大きいため、まったく話ができるような環境ではなかった。

真琴は拓海に向かい、くいくいと親指で後ろを指差した。どうやらついてこいということらしい。真琴がそちらに向かって歩き始め、拓海はそれに従った。

真琴が鉄製のドアをくぐると、拓海も真琴に続いていった。

バックヤードらしき場所に誘われ、中に入ると三人の男たちがいた。いずれも髪の毛を金色や赤に染めて派手な色をしている。歳は自分とさほど変わらないだろうと思った。その中に見覚えのある顔を見つけ、拓海は自身の鼓動こどうが早く脈を打ち始めたことに気付いた。

「なになに、マコ、そいつ誰よ?」

金髪の男が真琴に言う。

「この子は拓海、あたしの大学の後輩」

「ふうん、珍しいじゃん。マコがダチ連れてくるとか」

「それがね…」

「おい、アンタ」

真琴がいいかけたその言葉をさえぎって、拓海が見覚えのある男に向かって言った。

「ああ?」男は怪訝けげんそうに首を傾げる。「んだよ」

「北村珠月って、知ってるよな?」

拓海が言うと、一瞬、はあ?という表情をしたが、そのあと男はああ、といった具合にニヤリと薄い笑みを浮かべた。

「さあ、知らねーな」

「とぼけんじゃねぇよっ!この子だ、知ってんだろっ」

拓海は言いながら自身のスマートフォンに珠月の写真を表示させて男へ見せた。

瞬間、男の顔がこわばる。

「…ああ、知ってる、で、それが?」

男が次に発した言葉に、拓海は一気に頭に血がのぼった。

それからあとのことはあまり覚えていない。

気づいたら拓海は男になぐりかかっていた。自身の叫び声と真琴の悲鳴ひめいと、男たちの罵声ばせいとともに振りかざされた拳と蹴りの中で、拓海は意識を失っていった。だが、その中ではっきりと、拓海は欲しかった答えが聞けたことだけは忘れなかった。

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