第26話

湊人が病院へ到着すると、受付の待合ロビーで珠月の両親が待っていた。だが、湊人はいぶかしんだ。

「あの、珠月さんは?」

そこには両親だけがおり、珠月の姿はなかった。

「あの子は、いま家で留守番させてて。今日はわたしたちだけですから」

珠月の母は言いにくそうに湊人へ告げた。

「じつは、今日は神林さんには一緒に先生のお話をきいてほしくて」

「わたしらだけでは、専門的せんもんてきなことはさっぱりでしてね」

つづきを珠月の父が引き取った。

どうやら担当主治医たんとうしゅじい経過説明けいかせつめいをすると言われ、両親ふたりは病院へ呼び出されたらしかった。だが、珠月の事故以来、主治医から説明を受けても、ふたりには理解できないことばかりで途方に暮れていた。そこに珠月から、湊人が現在大学で記憶や脳科学に関する講義を受けていると聞かされたらしかった。湊人であれば、よく見舞いにも足を運んでいるし、そこでふたりは相談した末、彼ならばと今回の経過説明に同席を依頼したいということだった。

湊人も「ぼくでわかる範囲はんいでよければ」と、事情を知らされ、これに同意した。もちろん事前に医師にも了承をもらっているということだった。

湊人としては、珠月のその後が気になっていたところなので、これは願ってもいないことだった。

現在は個人情報こじんじょうほう保護条例ほごじょうれいも厳しくなり、病名すらも第三者への開示が規制されているこのご時世じせいだ。こんな機会でもなければ、珠月の病状の詳細を知ることはできなかっただろう。

そうして湊人は珠月の両親とともに、医師のもとを訪ねることとなった。

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